ヤルヴィ/大阪フィル定期 ~ 不肖ではない子どもたち
2005/7/7

この指揮者の父も兄も、大阪フィルの定期演奏会の指揮台に立ったことがあるようだ。お父さんのことは知らないが、お兄さんがタクトを振った定期演奏会は聴いている。東京に単身赴任する少し前、2000年11月のことだった。

 指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
  ヴァイオリン独奏:諏訪内晶子
  ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
  ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(ノヴァーク版)

当時の定期演奏会会場は中之島のフェスティバルホール、開始早々にソリストの弦が切れて、張り替えを待って頭からリスタートするという事件があり、終演時間が遅くなた。それに文句を言っている年配のファンが何人もいたのを覚えている。当時の音楽監督のコンサートでは1時間半ぐらいで終わることが珍しくなかった頃だ。

この定期演奏会を聴いて、「無理だと思うけど、この人が大阪フィルの音楽監督に来てくれないかなあ」、なんて思ったものだった。彼がシンシナティ交響楽団の音楽監督に就任というニュースを聞いたのはその翌年のこと。彼がオハイオに行くのと入れ違いで、ミネソタから戻ってきたのが今の音楽監督、まるで玉突きのようだが、結果オーライかな。

さて、その弟。本日の客演指揮者だ。

 指揮:クリスチャン・ヤルヴィ
  ぺルト:交響曲第1番「ポリフォニック」(1963)
  トゥール:交響曲第3番
  ストラヴィンスキー:舞踊音楽「火の鳥」
           (1910年原典版全曲)

最近の定期演奏会の入りに比べると空席が目立つ。前半の指揮者の母国エストニアの二人の作曲家の作品なんて、私は名前を聞くのも初めてだ。そんな人が多いはず。

それぞれ15分、30分の短い交響曲だ。木曜の夜、梅雨時のだるさもあって、はじめ全く自信がなかったが、ついに、最後まで、眠ることなく聴き通した。
 12音だとか、ポリフォニックだとか、プログラムを見ると怖じ気づいてしまいそうだったが、意外と面白い。CDで反復しようとは思わないが、実演ならまた聴いてもいい。

ペルトの第1楽章なんて、そんな風に書かれているのだろうけど、オーケストラの各パートがこんなに鮮明に聴き分けられるのは、最近の大阪フィルの進化の賜物と言えそうだ。響きが全く濁らない。汚く音が重なることなく、木管が弦が耳に届きます。

第2楽章は響きが少し厚めになって、合奏協奏曲から交響曲に移った感じ、いつもの席で上から見下ろしていると、一瞬、ヴィオラの第3プルトが飛び出してしまったのかなと驚いたが、そうじゃない、第3プルトから後ろと前に順次編成を増やしながらという書き方だった。他の弦楽器も同様の手法で、視覚的、聴覚的に面白い効果だ。普段は"大ぜい"という印象ですが、後ろのほうに座っている人も真面目に弾いているんだ。

クリスチャン・ヤルヴィという人、まだ若い、優秀な指揮者だ。複雑な書法の作品が並ぶプログラムだが、きっちりと拍子を刻み、素人目に見ても判りやすい指揮だ。前半のプログラムはおそらくオーケストラとしても初めて取り組む曲ではないだろうか。客演指揮者としての練習時間も潤沢とは言えないと思う。それで、この演奏だから、オーケストラの技倆向上もさることながら、この指揮者、ただ者ではない。トゥールも面白く聴けたが、私はペルトに感心。

後半の「火の鳥」、全曲演奏45分、お話を観せるバレエがなくて、オーケストラだけだと、交響曲のような構成感のない音楽ではしんどいのではと思ったが、こちらも最後まで息切れすることなく持ちこたえられた。

前半プログラムと同様に、細部がきっちりとしていて、流す感じはいささかもなし。大きな編成の割にはコンパクトな響きに聞こえる。演奏の充実度では前半に軍配が上がりそうだが、かと言って、「火の鳥」も悪くない。指揮者一家のニューカマーはどんな具合かと思って臨んだコンサートだったが、なかなか、これは。

プログラムによれば、クリスチャン・ヤルヴィは、ハノーファー北ドイツ放送フィルにも客演しているようなので、想像の域を出ないが、年間スケジュールを策定する際に大植監督の推挙があったのかも知れない。誰を呼んで何を演奏してもらうかを決めるのは、音楽監督の重要な仕事のはずだから。

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