VOC公演「アルチーナ」@伊丹アイフォニックホール ~ Brava!津山和代
2005/9/11
昨年の5月、この団体が日本初演した「ロンバルディアの王、フラーヴィオ」を宝塚まで聴きに行った。そして再びヘンデル作品を採り上げるという手書きのメッセージが添えられたDMが届き、早速メールで申込んだ。今回はマニアックな東京の知人は都合で来られませんがとのお断りつきで…
第10回VOC音楽会
ヘンデル『アルチーナ』
Alcina 津山和代
Ruggiero 野間直子
Bradamante 木村まどか
Morgana 木村直未
Oberto 中濱美佐
Oronte 神田裕史
Melisso 森孝裕
Astorfo 宅田裕彦
指揮・演出・制作 大森地塩
Baroque Ensemble VOC
前回の公演、どんなレベルのものか、さっぱり見当がつかず、おそるおそる行ったところ、津山和代さんが群を抜く素晴らしさ。その人が今回のタイトルロールにクレジットされているので、これは絶対"買い"。
予想に違わず、前回を凌ぐ津山さんの圧倒的な歌、役の重さでは遙かに昨年のヴィティージェ役を上回るアルチーナだが、血の通ったレチタティーヴォ、内包するドラマを表現しつくすアリアの充実、いやあ、恐れ入った。しかも、今回は全てダ・カーポ付きだ(前回はA-B-A'の繰り返しが省略されてしまって残念との指摘があったことを踏まえての措置か)。
ダ・カーポは歌い手にとって、テクニックの巧拙、スタミナの有無、表現力の高低が如実に表れる厳しさがある。他の出演者のレベルが低いということではないのだが、図抜けた表現力と声の力、津山さんのときだけオペラの興奮を味わうことができたのも確か。
今回が日本初演だという、この「アルチーナ」というオペラ、国内で人を探せば、他のキャストはいくらでも適役が見つかると思うが、この津山さんだけは、このままベストではないだろうか。初演、一定の水準をクリアして再現するということでは、ベテランの野間直子さんはじめ、出演者のレベルは決して低くはない。長い時間の丁寧な準備が想像できる熱演だ。
津山さんは別格として、モルガーナの木村直未さん、オベルトの中濱美佐さんという二人のソプラノは、若くてオペラの舞台もこれからの人のようで、活きのいい歌を聴かせてくれた。木村さんの、ときにフラット気味になることと、スーブレットにしては言葉が不明瞭な点は矯正の必要があるが、中濱さんともども素材としてはいいものがあるように思う。
バロックオペラは、最近舞台にかかることも増えてきたが、代わる代わる登場してはアリアを歌って退場、そういうパターンでオペラを楽しむには、個々の歌の、歌い手の負担が極めて大きいと感じる。コーラスは随所にはさまれていても、重唱なんてレチタティーヴォを別にすれば、第3幕の後半にやっとトリオが登場するだけだから。
第1幕は多数の登場人物の紹介とそのシチュエーションを理解することだけで苦労する。第2幕になってようやくアルチーナを中心にドラマが動き出す。第1幕を聴きとおすのは、いささかしんどいものがあったが、休憩をはさんで続けて上演された第2幕・第3幕は、前述のとおり津山さんの求心力のある歌唱で舞台が締まり、飽きることなくフィナーレに辿り着いた。正味3時間、ダ・カーポがカットとなかった関係だろう。ロングランだった。
伊丹アイフォニック・ホールは定員502人とのことで、こういう作品の上演には好適だ。客席のスロープがかなりあり、見やすい劇場だ。ピットはなく舞台上手にアンサンブルとコーラス。背景はスクリーンに映像を投影、下手には大きな桃のような大道具(女王アルチーナに捕らえられた者たちの檻?)というシンプルな装置だった。
そして、驚くべきは、この公演、満員札止めということ。前売り4000円で自由席。確か、前回公演も満員だったと思う。地道に佳い公演を提供しているから、これだけの集客が可能ということか。今週の水曜日、神戸で、ヴィヴァルディの「アンドロメダ・リベラータ」があり、実質75%offの優待券が乱発されている状態だが、この会場で配ったら半額程度で動員できるかも知れないのに…