飯守泰次郎/関西フィル定期/「ナクソス島のアリアドネ」 ~ 掉尾!奇蹟の一週間
2005/9/17

日曜日、水曜日、そして今日の土曜日、東京でもニューヨークでも、一週に3本のオペラを観たことは何度もあるが、全て"当たり"だったことなどついぞ記憶にない。それが、大阪で実現したのだから奇蹟に近い。

ヘンデル、ヴィヴァルディときて、最後はR.シュトラウス。ちょっと作曲された時代的にはギャップがあるが、これらの共通点を探すなら、いずれも"救出もの"のオペラであり、オーケストラが小編成ということかな。

執事:木川田誠
 音楽教師:片桐直樹
 作曲家:福原寿美枝
 テノール歌手(バッカス):竹田昌弘
 仕官:馬場清孝
 舞踏教師:二塚直紀
 かつら師:服部英生
 下僕:福嶋勲
 ツェルビネッタ:日紫喜恵美
 プリマドンナ(アリアドネ):畑田弘美
 ハレルキン:津國直樹
 スカラムッチョ:清水光彦
 トルファルディン:松下雅人
 ブリゲルラ:保坂博光
 ナヤーデ:佐藤路子
 ドリャーデ:西村薫
 エコー:老田裕子

以上17人の登場人物、関西二期会のメンバー、全て列挙したのは、過半を占める脇役たちの出来がとてもよかったから。こういうオペラで脇役の歌と演技がいかに重要かを思い知らされる。

舞台は前方にオーケストラ、通常なら管楽器・打楽器が並ぶ三段の雛壇が舞台となる。神殿の円柱のような大道具が5本立っているだけで、他はない。人物は役柄に合った衣装を付け、演技付きなので、演奏会形式というよりも簡素な装置の舞台と言ったほうが相応しい。

後半の"オペラ"ではアリアドネの場は照明を落とし、オーケストラは譜面台の灯りだけ、ツェルビネッタの場は一転明るくと、オペラの舞台の雰囲気だ。

オリジナルの編成はヴァイオリン6、ヴィオラ4、チェロ4、コントラバス2のようだが、今日はそれぞれ12、8、6、4に増強されていた。しかし、意外なほど音が抑えられている。鳴り出したときの柔らかさデリケートさに、ちょっとびっくりしてしまった。それは、全曲通しての印象でもある。見事に音をコントロールしてシュトラウスの精妙な響き、管楽器とのバランスを実現してる。飯守泰次郎、やはりただ者ではない。

"オペラ"冒頭のアリアドネの長いソロ、金管楽器が度々ひっくりかえっても、オーケストラ全体は盤石、びくともしない。出来不出来の差が大きい関西フィルだが、今夜は最上の響きと言っていいだろう。

アリアドネと言えば私には初めて観た舞台のジェシー・ノーマンが強烈過ぎて、つい重量級ソプラノと思ってしまうのだが、畑田弘美さんはちょっと違う雰囲気だ。パワーにまかせた歌ではなく、それこそ今日の飯守/関西フィルの柔らかな響きとぴったりくる。ソフトで丁寧な歌唱だ。ちょっとアリアドネのイメージが変わる。

そして、ツェルビネッタ、日紫喜(ひしき)恵美さん。この人は演技する人だ。自然でこなれている。舞台人としての天性があるのだろう。あの大アリア、舞台狭しと動き回って大丈夫かとハラハラしたが、お見事。どちらかと言えば小柄、あのコロラトゥーラの頂点での強靱な響きは、ちょっと他の人では得難いものがある。反面、声を張るところので長さがコンマ何秒か伸ばし過ぎのような気がする。そのあとの音(言葉)が落ち気味になったり、響きが濁ったりという箇所がよく聴けば見つかる。それが、なめらかさに欠けるとか、リズムが重いとかの印象を与えかねない。生気溢れる舞台上の演技に目を奪われていると見落として(聴き落として)しまうところだが、ちょっと気になるところだ。でも総じて言えば大満足、見事なツェルビネッタです。

この役、この歌、日本人ソプラノが軽々と歌う時代になった。釜洞祐子、天羽明恵、幸田浩子、そしてこの人。舞台で聴いただけでもそれだけの名前が。このうち、東京出身は天羽さんだけかな。あとは大阪というか関西。やはりツェルビネッタは大阪の女のイメージだ。

最後に仰天したのはバッカスの竹田昌弘さん。これまでも何度か聴いているのに、こんなに素晴らしかったかなあ。この声は尋常ではない。ピーンと張りつめた美声の気持ちよさ。こんなテノールは東京にはいない。これから、ワーグナーの諸役を演るときには、絶対に聴き逃せない。

音楽シーズンに入った途端、あまりにオペラに行きすぎで、カミサンのご機嫌がよろしくない。この公演も最後まで迷い、ギリギリになってオークションで招待券を1000円でゲット。うーん、安すぎる。しかも窓口で引き換えたチケットは2階RRD最前列。これは、シンフォニーホールでわずか60席しかないS席だ(大阪フィルの席割りの場合)。確かに普段の音とは違う。でも、席の位置には関係なく、演奏の質が段違いだったことは言うまでもない。

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