びわ湖ホール「スティッフェリオ」プレトーク・マチネ ~ 中鉢さんに期待
2005/9/19

プロデュースオペラ・プレトークマチネと題して、10月に公演が予定されている「スティッフェリオ」の解説+ミニコンサートが、中ホールで行われた。入場料1000円、公演チケットを購入している人は無料。

上原恵美館長の司会で、芸術監督の若杉弘氏、演出の鈴木敬介氏が「スティッフェリオ」にまつわるトーク、そして中鉢聡(スティッフェリオ)、折江忠道(その父スタンカー)、泉貴子(その妻リーナのカヴァーキャスト)の三人の歌い手によるオペラのナンバーが披露された(ピアノ伴奏:岡本佐紀子)。

敬老の日、天気もいいし、京都駅の美術館でやっている「愛のシャガール展」を覗いてから大津へ。この展覧会、連休というのに空いている。なお、入場券は会場でなく、みどりの窓口で購入するのが正解。800円のところ600円だ。

話を元に戻すと、トークとリサイタルがほどよくミックスされた1時間半だった。壇上のお三方の言葉が明瞭なのと、過剰でないのがいい。歌を挟むタイミングや順序も然り。きちんと進行のシナリオが書かれていたんだろう。

最初に登場したのは中鉢さん。
 スティッフェリオのロマンツァ
 「暁の光がさし始めた時…」
 Di qua varcando sul primo albore

ハッと息を呑むような声だ。初めて聴いたときから5年、声の輝きは増し、ずいぶん練れてきたなあ。テノールは音色が第一、はじめに声ありきだ。この人の声には(男の私が聴いても)色気がある。トークのオマケの歌なんかじゃなく、これは震えが出るような、ゾクゾクするような歌。

本公演ではリーナ役に事故のない限り登場の機会がない泉さんと、ベテラン折江さんのデュエット。
 リーナとスタンカーの二重唱
 「お前の心はその罪を洗い流す力に欠いていることを…」
 Dite che il fallo a tergere la forza non ha il core

この泉さんは若い。東京芸大博士課程在籍中とのこと。スピントへの発展の可能性を感じさせるリリコだ。声も姿も若いということは、いいものだ。アンダースタディと言いながら、いつなんどきでも舞台に立てそう。

折江さんのソロ。
 スタンカーのカヴァティーナ
 「リーナは天使と思っていたが…」
 Lina, pensai che un angelo

マクベスで聴いたときに感心した覚えがあるが、この人は声が前に出ないのが難点。顔の内側で音が響いているような感じがある。しっかりしたフォームの歌であることには違いないのだけど。

最後に中鉢さんを中心にしたアンサンブル。
 シェーナとスティッフェリオのアリア
 「至るところで美徳が虐げられ…」
 Vidi dovunque gemere oppressa la virtude

冒頭のロマンツァでは無駄な力が全く入っておらず、見事な歌を聴かせてくれた中鉢さんだが、ちょっとここでは力むところもあった。常にレガートが肝心。そのくらいの気持ちで歌うのがちょうどいい。そうすれば、もっと強くてきれいな声が出る。まだ1か月あまりの練習期間があるわけですから、もっと良くなだろう。

歌はこれだけで、あとは10月に乞うご期待ということ。これが8作目になるというプロデュースオペラ、私は皆勤賞継続中だが、会場のファンにもそういう人が多いようで、質問コーナーでは色々と出てきてなかなか面白い。
 トークの内容と質疑応答を通じて、私にとって耳新しい情報は次のようなもの。

プロデュースオペラのヴェルディ初演シリーズは10作で終了の見込み。「ドン・カルロ(5幕版)」に始まって、今回の「スティッフェリオ」で8作。あと、「海賊」、「レニャーノの戦い」を採り上げる予定で、都合10作の初演で一応の終結。まだ「アルツィーラ」と、改作ものの「エルサレム」、「アロルド」が残っていると思うが、10年の区切りで若杉さんは後任(未定)にバトンタッチするようだ。次の路線にについては未確定。新国立劇場のポストの関係もありそうだが、ご本人もびわ湖ホールの仕事には愛着があるようす。

今回、「スティッフェリオ」を採り上げるにあたっては、2001年にびわ湖ホールでも来日公演を行ったメトロポリタン歌劇場のジェームズ・レヴァインのサジェスチョンが預かって力があったとのこと。一緒に食事をしていて、びわ湖ホールのヴェルディ初演シリーズに話が及んだとき、テーブルを叩いてジミーが絶対「スティッフェリオ」を上演すべきだと言ったとか。それをきっかけに、メットから資料提供を随分受けたようだ。

この「スティッフェリオ」は原作も入手できない状態らしく、資料が少なくて演出には苦労していると鈴木さん。プロテスタントとカトリックの対立がテキストに暗示されているところがあり、それをどう表現するかもポイントとのこと。そして、ヒロインのリーナが不倫に奔る理由も説得力が乏しいのが問題のよう。ヴェルディには珍しく、室内場面ばかりのオペラなので、舞台はアクリル半透明の装置を使って、背景で動きを見せるようなアイディアを検討中とか(見てのお楽しみ)。

びわ湖ホールからだらだらの坂をのぼり、膳所(ぜぜ)駅からJRの快速電車で帰路につく。京都での乗換のとき、同じドアから先に降りる二人連れ、息子が親父に何やら話しかけているのが秋田訛り。もしやと顔を上げたら、やっぱり、折江・中鉢父子だった。きっと大津から乗ってきて、新幹線で東京に戻るんだろう。車内で早く気づいたら、励ましの言葉をかけて、サインぐらいもらったのに。

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