大植英次/大阪フィル定期「トスカ」 ~ 変化の兆し?
2005/12/

まず驚いたのは、指揮台の前に大判のスコアが置かれていたこと。これは異変だ。そして、大植さんは飛ばすこともなく律儀にページを繰りながらの指揮であったこと。したがって、いつもの大きめのアクションは影をひそめ、なんだか別人が立っている感じ。音楽自体がヴィヴィドなところは変わりませんが、指揮者がやけに目立つという従前の印象は薄いだ。

いい方に解釈すれば、指揮台でしゃかりきにならなくても、メンバーとのコミュニケーション、意思伝達は何の心配もないという段階に至ったということか。
 別の解釈をすれば、バイロイトの経験を経てオペラの怖さがわかってきたということだろうか。暗譜で指揮することのメリットは多いにしても、リスクが伴うのも事実。全部覚えるなんてことは不可能だし、音符が頭に入っていてもイタリア語のテキストまでは無理だろう。ポピュラーなオペラとはいえ、たぶん指揮した経験はない(?)はずだし。

プログラムに載っていた最近のスケジュールによれば、11月から12月にかけてドイツでのコンサートが続き、その最後が今月2日というのだから、終了後すぐに飛行機に飛び乗っても「トスカ」のリハーサルには3~4日しか割けない!

もちろん、副指揮者クラスが事前準備はしているのだろうが、こんなハードスケジュール、働き盛りだから出来る芸当だ。しかも、これでもうひとつのオーケストラ(バルセロナ)の常任指揮者に就任とのことなので、ちょっと心配にもなる。でも、換言すれば、今の自分の力が最も発揮できそうなオーケストラと組んでいるという感じもあるので、それはこの人のクレバーさなのかも知れない。

と、いきなり脱線したが、本日の演奏は第2幕以降は大変見事な出来だった。

タイトルロールの横山恵子さんの安定感と見事にコントロールされた美声、ときに叫ぶような歌になりがちなこの役で、そんなところは一切見せず終始絶好調と言っていい感じ。「歌に生き、愛に生き」では最後はあっさり気味でしたが、表現過剰とならず、私は好感を持った。

ヴェルディの作品ではあまり好印象を持っていない福島明也さん、でもスカルピアなら問題なかろうということで聴いたが、予想どおり。全然違和感はなく、これでいいのだという感じ。この人の問題は、これと同じ調子でヴェルディを歌ってしまうことにある。
 第1幕の最後はオーケストラにかき消されるのは誰が歌ってもいたしかたないことだし、正念場の第2幕のトスカとの絡みはなかなか聴かせてくれた。

福井敬さんのカヴァラドッシは、いつもながらの熱演で悪くはないし、拍手喝采だが、不思議に思うのはレチタティーヴォというか地の部分でのメリハリの良さが、アリアのなかで充分に発揮出来ていない気がすること。声の、歌の密度が薄くなる部分がアリアのなかでは散見されることです。特定のフレーズだけ切り出して聴いたなら、何ら魅力のない声、歌ではないかと思うような箇所があるのが気になる。特にエンジンのかかりきらない第1幕に顕著、登場いきなりの「妙なる調和」はベストの出来とは言えない。

同じようなことはオーケストラについても言えて、第1幕はよく鳴っているしメリハリもあるのだが、イタリアオペラの醍醐味であるひとつひとつのシーンが積み重なり、大きな流れとうねりを感じるというものではなかった。そこが第2幕以降との出来の違い。

さて、二日目、オーケストラは間違いなくもっと良くなるだろう。連日ということで歌手の疲れが気になるが、横山さん、福島さんが今日の調子を持続し、福井さんが少しリラックスして本調子になればもっとよくなる。

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