大植英次/大阪フィル定期「トスカ」 ~ 違ってあたりまえ?
2005/12/9

二日にわたる定期演奏会、私は初日のほうの会員なので普段は二日目を聴くことはないが、昨年の「サムソンとデリラ」同様、今回も連日の鑑賞となった。会員だと別の日の分も優先発売があって、割引価格だ。

キャンセルが出た席が少し売られていたが、両日ともほぼ完売、急遽追加発売されたPゾーン(私は"ネット裏"と呼ぶ)も満席だ。あそこで歌手の背中を見てオペラを聴く気にはならないが。

面白いのは初日(木曜)と二日目(金曜)では聴衆の雰囲気がやや違うこと。翌日がお休みとなる二日目は、何となく客席もゆったりしている。逆に反応は鈍いし、居眠りやノイズも目立つ。総じて初日のほうがテンションは高い。拍手や歓声に関してもかなりのレベルの違いを感じる。良くも悪くも二日目は常識的だ。声を掛けるならこのタイミングというところで出るのは初日。しかし、プッチーニはそうさせないように音楽を書いているので、いつも作曲家と客席の攻防になるのだが、今回は「歌に生き恋に生き」と「星は光りぬ」では、音楽を止めることを予定していたようだ。熱気については初日だが、きちんと余韻が聴ける二日目もいいし…

「蝶々夫人」は三度ほど演奏会形式で聴いたことがあるが、「トスカ」をこのスタイルで聴くのは初めてなので、舞台に乗ったオーケストラではいろいろな発見がある。

その最たるものが、終幕のカヴァラドッシのアリアの前の長大な前奏だし、チェロ4本による美しい分奏。メットで観たゼッフィレッリ演出だと、牢獄が徐々に奈落に沈み、サンタンジェロ城の屋上に替わっていく舞台転換の大技のほうに気をとられてしまって、音楽への注意が散漫になってしまう箇所だ。

それとは逆に、第2幕の幕切れ、トスカがスカルピアを刺殺した後の音楽は、舞台のない演奏会だとサウンドトラックをレコードで鑑賞するようなつまらなさを感じてしまう。ここは、トスカがスカルピアの死体の横に燭台を置いたあと、ゆっくりと退場していく場面のバックの音楽、舞台あっての音楽と言える。もう少し遅く生まれていたらプッチーニは間違いなく映画音楽の大家になっていたと思う所以だ。

あと、第1幕のサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会のシーン、コーラスは舞台に模してシーン毎の出入りで大変そうでしたが、本物のパイプオルガンが据えられたホールで演奏する効果は、この幕切れの「テ・デウム」では圧倒的なものがある。

さて、両日の演奏については、細かなところでの違いがあったように思う。初日よりも二日目は、歌手に委ねるところが増したのではないだろうか。アリアでの歌い回しなど、かなり手綱を緩めたような感じがする。

横山恵子さんの歌いぶりには大きな差は見られなかったが、それでも「歌に生き恋に生き」は表現が少し濃くなっていた。それと裏腹に声の安定感は初日のほうがわずかに勝っていたように思う。

福井敬さんの歌唱は、第1幕では二日目が勝り、第3幕では初日が勝るという感じ。この日の第3幕のアリアは力みすぎて音楽の美感を損ねていたのが残念。大熱唱である反面、石畳の道を高速で飛ばしたような乗り心地の悪さというか、メロディラインを殺す不規則アクートの悪いところが見えてしまう。昨年のサムソン、それも二日目は、無駄な力が抜けた絶唱だったんだけど…

福島明也さんも、初日のほうが歌いぶりの丁寧さということで、出来としてはよかったと思う。

そういうことで、歌のほうでは初日に軍配があがるが、オーケストラでは断然二日目かな。特に第1幕、初日よりも音楽の流れがスムースになった。もっとも、終幕あたりは初日のほうが見事だったように思います。

このところ、西宮、名古屋と、オペラのバックでお粗末なオーケストラを聴かされていたせいもあるが、両日ともオーケストラが立派すぎる感じ。バイロイトでは鳴らし過ぎという批判もあったようだが、今回は舞台に乗せたオーケストラだしこの程度の音は仕方ないだろう。むしろ繊細なピアニシモに留意したところも多かったように思う。

昨年の「サムソンとデリラ」、大阪での大植監督の初めてのオペラということで、聴くほうもワクワクだったし、オーケストラも尋常ではない入れ込みようだった。二年目の「トスカ」は自然体と言ってもよく、一年前ほどの熱気はなかったものの、それでいてレベルの高い演奏を聴かせてくれたので、まずは満足。

もうすぐ2006-2007シーズンの定期演奏会プログラムが発表の運びですが、前に小耳にはさんでいたとおり、7月の第400回には大野和士さんが登場するようだ。節目の定期演奏会だから、本来であれば音楽監督が満を持して指揮台に立つというのが普通だが、この7月のところは幻となった二年目のバイロイトにリザーブしていたのだろう。いっそ、この時に大野さんのオペラを聴きたいものだ。

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