「おおさか・元気・クラシック」 ~ かぶりつきは、つかれるなあ
2006/1/12

NHK大阪放送局、大阪府などの主催で、毎年行われている「おおさか・元気・クラシック」というイベント、在阪の4オーケストラがそろい踏み、お値段もお安くということのよう。同じシリーズで「文楽」も「能・狂言」もある。

一般2000円のところ、800円という格安の出物を見つけ、直前にゲット。会場のNHK大阪ホールに出かけたら、何と最前列中央ではないか。なお、このホールは東京の悪名高いホールと違って、1400席あまりの適度な大きさだ。

マーラー:歌曲集「さすらう若人の歌」
 マーラー:交響曲第1番ニ長調「巨人」
   大阪フィルハーモニー交響楽団
   (指揮)山下一史 (ソリスト)田中勉

定期演奏会のように眦を決したプログラムではないにせよ、名曲コンサートのようなルーチンに近いものでもないというところか。この双子のような作品を並べたプログラムはありそうで、なかなか、ない。

田中勉さんにしても、山下一史さんにしても、オペラではお馴染みだが、コンサートプログラムで聴くのは私は初めてだ。芸術的低迷に追い打ちをかける不祥事で、もはや死に体となった関西歌劇団におけるほとんど唯一のまともな歌い手が田中さん、関西を代表するバリトンだ。一方の山下さんは国内唯一の座付きオーケストラであるカレッジオペラハウス管弦楽団の常任指揮者。そんなコンビが、どんな演奏を聴かせるのか興味津々。

それがなかなか、いい。メリハリの効いた歌だ。上のほうで聴いていたらどうなのか何とも言えないが、最前列なもので、歌手の息づかいも、繊細なピアニシモもはっきり判る。田中さんは46才だそうで、ずいぶん若返って歌いましたとの弁。私は聴き逃したが、なにしろ最近の役ではヴェッキオ・ジョン(ファルスタッフ)だからなあ。ここではオーケストラは控えめに声をサポート、このあたりの呼吸は山下さんも心得ている。

休憩後のシンフォニー、演奏会のタイトルじゃないが、ほんとに"元気"だ。開演を前にオーケストラのメンバーが三々五々入場し、一つ残ったコンサートマスターの席に、今日は誰が座るのかなと思っていたら、おっ、長原幸太さん、こりゃいいぞ。

とにかく元気印、絵になるコンサートマスターだ。この人からはいつも、弾くのが楽しくってしょうがないというのが伝わってくる。やや太めの音色、かと思えばソロで見せる艶やかさにも不足しない。トゥッティの中での細かい音符も全部音にしているのが、この位置だと手に取るように判る。

第一楽章冒頭の最弱音を、かぶりつきで聴くとこんなにスリリングかと思う。ためを作ってフォルティシモを奏する前の鼻息と、呼吸を止める音、激しいアタック、蜘蛛の糸のようにパッと弓の毛が切れて細く飛び散る。曲が終わる前に弓がおしまいになってしまうのではと心配になるほど。あまりの激しさ、楽章の切れ目でちぎれた毛をむしる姿に第一プルトの隣の奏者、第2ヴァイオリンの首席も横を見て笑っている。そして、かぶりつきで私も笑っている。その舞台上の3人、終楽章では揃ってちぎれた弓を振り回しているのだから、何のことはない。コンサートマスターの熱は伝播するのだ。

若い指揮者と若いコンサートマスターの二人で作ったシンフォニーという感じ。それはこの曲にとても似合っている。全体にはオーソドックス、奇を衒うことのない演奏だったが、若々しさ、瑞々しさは充分。ただ、この位置で聴くと個々の奏者の音が混ざり合わずに耳に届くので、とても面白いけれど大変に疲れる。多目的なので響きがデッドというホールの特性にもよるものかとも思う。

楽しかった。とっても安いコンサートだった。

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