若杉弘/大阪フィル/「ペレアスとメリザンド」 ~ やはり厳しいこのオペラ
2006/5/23
年度の定期演奏会のプログラムが発表されたときには、5月公演の終演は22:00頃(開演は19:00)とアナウンスされていたように思う。それが、かなりのカットを施して21:20には終わったので、ちょっとびっくり。
きっと、結構な人数だろう高齢の定期会員あたりから終演が遅すぎるというクレームがついたのだろう。と言うのも、若杉さんのプログラムで終演後に「長すぎる、遅すぎる」と、大阪フィルの人に執拗に食ってかかっていた会員の姿を以前に目撃したことがあるから。そのときのプログラムはオール・ヴァイルという、歌ありジャスありシンフォニーありのてんこ盛りだった。遅くなるのが嫌なら、途中で帰ればいいのに。
カットの是非はともかく、フランス語を解さない人間にとっては、やはりこの作品、辛気くさいオペラであることは否めない。演奏者は健闘(特に脇役だった大阪勢の二人の歌手が張り切って)だったが、実演で聴くのは3度目のオペラ、私はどうも苦手で。
ペレアス:近藤政伸
メリザンド:浜田理恵
ゴロー:星野淳
アルケル王:斉木健詞
ジェヌヴィエーヴ:寺谷千枝子
イニョルド:日紫喜恵美、
羊飼い/医師:田中勉
合唱:ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団
これまでに聴いた二回というのは、1993年の東京フィルのオペラコンチェルタンテシリーズ(大野和士氏ではなくマルク・スーストロという指揮者)と、1998年の新日本フィルの舞台公演。後者は、ずっとスポンサーだったヘネシーが降りて、看板の小澤征爾氏が疲労による休養で指揮者交代(ジェラード・シュワルツ)になったが、逆にシリーズの中では出色の出来だったという、いわく付きの公演だった(テレサ・ストラータス、ドゥエイン・クロフト、ホセ・ヴァン・ダムほか)。
古いプログラムを引っ張り出して、変なことに気づいた。1993年の東京フィルでペレアスを歌ったのは近藤"伸政"(相手役は豊田喜代美)、今回のペレアスは近藤"政伸"。あれれ、これはどういうこと。写真を見れば10年以上の年の流れを感じるものの、まさしく同一人物だ。1993年の場合はチラシも当日プログラムも"伸政""Nobumasa"一辺倒で、確信的。ということは、いつかの時点で改名したのかな。Googleでのヒット件数は圧倒的に"政伸"なので、今回のプログラムが間違っている訳ではないと思う。謎だ。
オペラグラス持参なもので、パート譜にベタベタ貼られたポストイットがやけに目につく。「○○まで飛ぶ」だとか、「ここ、カット」だとか、長い矢印が隣のページまで行っていたりとか。これを耳に馴染んだオペラでやられたら、「何だこりゃ」と一騒ぎになりかねないが、「ペレアス…」でやっても、私を含め判る人は少ないだろうと思う。だから目出度く通常の定期演奏会サイズに収まる。でも、なんか、変だなあ。とみに地盤低下とはいえ、22:00終演で電車がなくなるほど、大阪は田舎じゃないんだけどなあ。
フランス音楽が好きな友人が休憩時間に曰く、「ゴローが怪我をする場面があらへんかったから、きっと途中で居眠りしてしもたんやと思たら、なんや、カットしとったんか。道理で、えらい、はよ終わる思たんや」と、私はほんとに居眠りしていたので、返す言葉なし。
とてもそんな気はないけど、CDなどで100回予習しても、このオペラはダメだろうなあ。まあ、聴くのが仕事じゃないし、気晴らしだから、好き嫌い、自然体で行けばいいこと。
フランス語は判らないので、オーケストラだけを聴いていてもいいのだが、そういう訳にもねえ。ペレアスの近藤さんは、きっと10年前のほうが声の魅力はあったんだろう(その時は、たまたま時差ボケで何度も居眠りが出て、いびきもかいたようで、隣の人に突かれたという嫌な思い出あり)。
浜田さんは好きな歌手なんだが、びわ湖のヴェルディのヒロイン(ジョヴァンナ・ダルコほか)のほうがずっといい。前述した日紫喜、田中の大阪勢の他では星野さんが光っていたというところか。
なんだか、私にとっては、カタルシスのない、フラストレーションの残るコンサートになった。もともとこの曲自体がそうだと言えなくもないけど…