関西二期会「ノルマ」 ~ やっぱり歌、やっぱりメロディ
2006/5/28

外来・国内を問わず、「ノルマ」も普通に上演される時代になった。40年近くオペラを観てきた人間としては、ちょっとした感慨だ。昔の記憶を呼び起こせば、上演頻度の高い有名オペラにしても、アリアを破綻なく歌えれば御の字という時代が関西では長く続いたと思う。まして、レチタティーヴォでのドラマなんて薬にしたくてもなかった。それを考えれば、この10年の進歩は著しいものがある。

もうすぐMETの来日、綺羅星が並ぶオペラハウスと比較は出来ないにしても、その隣のNYCOぐらいの水準は楽にクリアしてしまうところまで国内のレベルは来ているのだから…

ベッリーニ「ノルマ」
 ノルマ:垣花洋子
 アダルジーザ:中川令子
 ポリオーネ:竹田昌弘
 オロヴェーゾ:山中雅博
 指揮:大勝秀也
 演出:松本重孝
 合唱:関西二期会合唱団
 管弦楽:京都市交響楽団

土曜と日曜、ダブルキャストの上演だが、迷わず選んだ二日目、竹田昌弘の名前がポリオーネ役にクレジットされていたからだ。他のキャストはよく知らない。このオペラ、題名役のノルマが中心であることは間違いないが、キーロールはポリオーネ、ここが弱いと全くサマにならないから。

結果、正解。後半の第二幕になって、ちょっとユルい感じはあったが、第一幕の竹田ポリオーネは見事な出来。冒頭のアリア(「ヴィーナスの祭壇に私とともに」)では最高音の冒険は避けたものの、輝かしい声を全開、これがキマるか否かにオペラの命運がかかるところを見事にクリア。大向こうから「大林組!」と声がかかってもおかしくない。昔、堀内康雄さんに「味の素!」と声がかかったことがあるらしいが、「成田屋!」みたいなものか。現役サラリーマンとの二足の草鞋で大変かと思うが、男声の場合、イタリアでも歌手専門で歩んで来なかった名歌手はザラにいるわけで。

垣花洋子さんのノルマ、どんな歌手なのか知らなかったし、難役に挑戦するからにはそれなりのものとは思っていたが、いやあ、立派なものだ。ちょっと強弱のつけ方が大きすぎる嫌いはあるが、最後までスタミナが持続したから大したもの。美声だし、舞台姿もいいし、これはこれは、関西にも逸材がいる。

第一幕の超有名曲「清らかな女神よ」のカヴァティーナは抑え気味で、声量不足かなと一瞬思ったが、そうではない。以降、終わりまで聴いていくと、メリハリの利いた歌であることを認識。

この二人に比べると、アダルジーザの中川令子さん、オロヴェーゾの山中雅博さんは、やや落ちるという印象。中川さんは重唱のときには見るべきものはあったが、ひとりのレチタティーヴォになると非力さを感じる。山中さんはややムラのある歌唱で、ベルカントの美しさを損ねる発声が随所に見られたのが残念。

大勝秀也指揮の京都市交響楽団は、舞台上の歌手に触発されたのだろう、熱のこもった演奏だった。松本重孝演出はすっきりした手際で美しい舞台を創っていたと思う。シンプルな装置で転換もスムース、余計なメッセージを込めてドラマの邪魔をしないのがいい。

この「ノルマ」、第二幕は苦手だ。第一幕でベッリーニの美しい音楽に乗せてゆっくりと進むドラマが、第二幕になって訳のわからないスピーディさになるのが解せない。最終場面なんて、どう考えても無理な展開、ノルマにしてもポリオーネにしても、アッという間に翻意、ワーグナーなら三日三晩かけてやるようなことを、10分そこらで急展開というのにはついて行けないなあ。これを説得力のあるやり方で、歌で示すのは無理というもの。傑作と呼ばれる作品だけど、私はどうも納得がいかない。

ともあれ、やはり、オペラは歌だし、メロディだなあと、「ペレアスとメリザンド」を聴いた直後だけに、それを痛感した尼崎アルカイックホールだった。さあ、いよいよ6月。ワールドカップをとるか、オペラをとるか。

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