ボローニャ歌劇場「連隊の娘」 ~ 極楽ツアー2006・PART2
2006/6/9

私にとっては2006年の最大の目玉なのに、ボローニャ歌劇場の来日公演3演目のうち、「連隊の娘」だけ、びわ湖公演がないというのは残念の極み。そんなことで、地元の公演は見送り、わざわざ東京まで。結果、それだけの価値は充分にあった。

ファン・ディエゴ・フローレス(トニオ)
 ステファニア・ボンファデッリ(マリー)
 ブルーノ・プラティコ (シェルピス軍曹)
 エレナ・オブラスツォヴァ(ベルケンフィールト侯爵夫人)
 ブルーノ・カンパネッラ(指揮)
 エミリオ・サージ(演出)

この大好きなオペラの実演が次に聴けるのはいつか判らないから、この機会を逃すと後悔する。ましてや、フローレスが歌うのだから。そのフローレスは期待に違わぬ出来で、何とか仕事をやりくりして備えただけのことはあった。圧巻だった4年前のアルマヴィーヴァ(「セヴィリアの理髪師」)に勝るとも劣らない。

第一幕の「友よ今日は何て楽しい日」はアンコールまでするサービスぶり。オペラのナンバーのアンコールを聴いたのはこれが二度目(あとの一つはカップッチッリが歌った「道化師」の口上)。最終公演ということもあって、オーチャードホールは大変な盛り上がりだったが、ほんとうに素晴らしかったのは第二幕のアリアのほう(「マリーのそばにいたくて」)。マリーの母親、ベルケンフィールト侯爵夫人に切々と恋情を訴え哀願するこの歌が、こんなに真心のこもった歌われかたをするなら、母親としては絆されてしまうのは当然。そんな印象だった。こんな歌を聴けただけでも大枚の価値はあるというもの。

今回のキャストが発表されたときの私の不安材料は、タイトルロール、ステファニア・ボンファデッリ。まさに予想したような結果だった。舞台姿は見栄えがするし、お芝居もそつなくこなすし、歌だって叫び気味のアクートの部分を除けば、サマになっているのだが…

根本的な問題として、この人の歌には心が感じられない。形は整っていても、人を感動させる歌じゃない。その典型が、第二幕の大アリア、「お金も地位も…フランス万歳」。うち沈んだ前半と、連隊の仲間たちとの再開の歓びが爆発する後半、歌としてはきちんと歌っているし、仕草も伴っているが、表情、顔だけじゃなく声の、歌の表情の変化が極めて乏しいのだ。ほんとうに喜んでいるんだろうか、偽物の歓びに過ぎないんじゃなかろうか、そんなふうに思えてしまう。一見、悪くなさそうでいて、よく聴くと…。私は大変に不満だ。第一幕のアリア「さようなら」や、トニオとのデュエットでは、不満は感じなかったのに、最後の歌でがっかりしてしまった。

ボンファデッリには不満でも、それは予め覚悟していたことで、公演の足を引っぱる訳ではないし、まあいいかというところ。それよりも、脇役の二人が良くて、それで救われたという面もある。

私はオブラスツォヴァを聴くのは、20年振りぐらいだ。1987年のMETでアズチェーナを聴いて以来。あのときだって絶頂期は過ぎていたと思うが、それから20年。こういう役だから出演したのだろうが、予想外の好演。ある意味ではキーロールだから。舞台が締まる。

その伝で言えば、ブルーノ・プラティコのシェルピス軍曹も同じ。この人は期待通りの芸達者振りを披露してくれたので、大満足。間の取り方が抜群。それにしても、横を向いたときのお腹の出具合は凄まじい。何か巻いているのかな。メタボリックシンドローム*2ぐらいの立派さ。

脇を固めたベテランの歌と芝居、(背景の向こう側も含めた)人物の動かし方のスムースさ、演出のエミリオ・サージの手腕も見事で、涙あり、笑いありの上質な舞台に仕上がっていた。やっぱりこのオペラ、ドニゼッティの不朽の名作だ。

ブルーノ・カンパネッラは私の視聴回数No.1のディスクでもこのオペラを指揮している(ジューン・アンダースンとアルフレード・クラウスのパリライブ)。序曲が始まったとき、やけにだるいテンポと感じたが、そのうちに慣れた。オーケストラが優秀だ。イタリアの二流の劇場の楽団だとついて行けないだろうと思う。指揮台から愛嬌を振りまいて、楽しそうにやっている。そりゃ、フローレスの歌をあそこで聴いていて楽しくないはずがない!

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