大友直人/京響・東響/「グレの歌」 ~ シェーンベルクも怖くない
2006/6/24

梅雨の晴れ間だったが、盆地のことゆえ蒸し暑い京都。50周年記念演奏会なのに、アマチュアコーラスが200人ほど舞台に上っているのに、客席の入りはいまひとつだ。曲が曲だし、チケットが普段の定期演奏会よりも高めに設定されていることも不入りの要因だろう。埋まり具合は7割程度と見た。京都人はしぶちんだから…

正面2階席で聴いたが、休憩後は人口密度が増したようだ。反対に舞台サイドには空き席が増えた。休憩時間に2階後方に立っている人が外人さんを含め何人かいて、灯りが落ちるとともに空席に着席。大阪のザ・シンフォニーホールなら一悶着必至だが、ここは京都、誰も咎めたりはしない。ここらのソフィスティケイティドされたところ、いかにも古都らしい。

シェーンベルク:グレの歌
 王:トーマス・ステュードベイカー(T)
 トーヴェ:グィネス=アン・ジェファーズ(S)
 山鳩:坂本朱(Ms)
 クラウス:吉田浩之(T)
 農夫:長谷川顯(B)
 語り:ヨズア・バルチュ
 大友直人(指揮)
 京都市交響楽団、東京交響楽団
 京響市民合唱団、京都府合唱連盟

当然、字幕付きだと思っていたら、えっ、ない。プログラムに対訳が載っていが、演奏中の暗い客席でこんな細かい字は読めないよ。今まで、ただの一度も聴いたことがない曲で、予習なんて全くしていない。こりゃ困った。

とまあ、前途多難を思わせた開演前だったが、案ずるより産むが易し、なかなか楽しめた公演だった。お話もよく判らないままに聴いていたが、ソリストたちの出来がとてもいいのでオペラを観るよう。代わる代わる歌って重唱は一切ないから、どちらかと言えばバロックオペラとの近似性さえ感じる作品だ。

ソリストたちが、150人の巨大オーケストラに負けていなかったのが驚き。なかでも出色だったのはグィネス=アン・ジェファーズ。黒人歌手、とても豊麗な声だ。巨漢テノール、トーマス・ステュードベイカー、出番は一番多く、途中からややガス欠気味になるが、まあ充分な出来ではないだろうか。国内勢も素晴らしい頑張りぶり。それぞれの出番は長くないから全力投球という感じ。坂本朱さん、長谷川顯さんはオペラ全曲で聴くときに比べ格段の存在感だ。吉田浩之さんは、私がこれまでに聴いた限りでは、長丁場では声に疲れを感じることもあったが、こういう軽めの役回りでは本領発揮ということだろうか。声の伸びと安定感があった。残念なのはコーラス、精一杯なのだろうが、ちょっとこれじゃねという印象。人数はいるけど、ボリュームはないし揃わない。アマチュアなので、あまり言いたくないが、彼らはノーギャラだとしても、客からはお金を取っている訳だし…

難解な12音技法という先入観があるシェークベルクだが、この作品を聴く限り、なあーんだマーラーの延長じゃないか、けっこう親しみが持てるじゃない、という感じ。これは大友さんの料理の腕前にも負うところがあると思う。そして、自身がトップに立つ二つのオーケストラの合同演奏だからか、にわか仕立てという感じはない。いつものオーケストラの編成をフルメンバーにして常連のエキストラを入れた程度の感じ。こうしたお祭りイベントに留まらない、定期演奏会水準を確保しているのは立派だ。

さすがに、第一部の前半では、こちらの耳が慣れないせいか、ステージに立錐の余地なく並んだプレイヤーたちの、あっちとこっち、距離の離れたところで音が鳴っている感じがしたが、だんだん音が一つのオーケストラとして凝縮していくのが判った。休憩後は全く違和感なしの凝縮度となる。

日曜日には場所をサントリーホールに移して再演される。コーラスは完全に入れ替わる。オーケストラの練度、コーラスの質からみて、東京での演奏がより進化するものと思われる。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system