大野和士/大阪フィル第400回定期演奏会 ~ 記念にふさわしい肩すかし
2006/7/6

昨年の秋、大野和士さん来日の折に漏れ聞いた大阪フィル定期への登場の件、その後発表されたシーズンプログラムに、やはり名前があった。でも、それが第400回記念にあたるとは意外。普通なら音楽監督が振るのが順当だが、よく考えたら、(結果的に幻になった)バイロイト2年目があるので、7月定期はもともと他の指揮者の人選が進められていたということか。それが、大野さんなら何の不足もない。

モーツァルト:交響曲第33番変ロ長調
 細川俊夫:打楽器協奏曲「旅人」(独奏:中村功)
 ショスタコーヴィチ:交響曲第15番イ長調

自身があまり好きじゃないということもあって、モーツァルトは余計だなという気がしてならない。お目当てのショスタコーヴィチの最後のシンフォニー、それに興味津々の打楽器協奏曲、いくら記念の年だからといって、200年前の音楽とセットにすることもあるまいに…

なので、端正な演奏だとは思ったが、この変ロ長調シンフォニーでなく、他の選択もあったろうになあと…。例えば、プログラムの最後の曲で引用しているロッシーニやワーグナーの舞台作品の音楽で、ユニークな打楽器協奏曲をサンドイッチにするなんて、面白いと思うんだけどなあ。ピットでの仕事がシンフォニーオーケストラと同等かそれ以上という、邦人では稀有な人だけに、絶対そっちのほうを聴きたい。

ちょっとプログラミングにケチをつけたりしたが、細川、ショスタコーヴィチは文句なしに楽しめた。

打楽器協奏曲ではソリストの周りをぐるっと囲んだパーカッション、風鈴まであるけど、主体は和楽器じゃない。でも、響きはジャパニーズ。バックのオーケストラが作る音のかたまりの上に、中村功さんの一人舞台。観ていてとても面白い。最後は、お遍路さんよろしく、手に鐘を持って舞台から客席を抜けて場外へというパフォーマンス。それが標題の由来か。まあ、これは舞台上演を前提にした作品だなあ。

ショスタコーヴィチのこのシンフォニーを400回記念に選ぶというのは、なかなか洒落ている。さすがに第9シンフォニーじゃないにしても、それでもアイロニカルという感じはある。何の解決もなく消えゆくように曲が終わり、20秒ぐらいの長い沈黙があって、大野さんが腕を下げたところでようやく拍手が巻き起こるという、それはそれで、いい感じの終わり方、記念演奏会らしいと言えなくもない。単調で騒々しい音の推移で終始するショスタコーヴィチを、このところずいぶん聴いてきたような気がする。それは別のシンフォニーなので、一概に比較は出来ないが、こんなに息を呑むほど静かな部分で聴かせるショスタコーヴィチというのは。この曲、依然評価の定まらない、同時代の問題作なのかも知れない。

東京にいたころ、オペラを振るときには、ほとんど聴き逃さなかった大野さん、ようやく大阪で聴けた。ミラノ、ニューヨーク、パリ…、この人は、ブリュッセルの後、いったいどこに落ち着くんだろう。

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