ブルノ歌劇場「ドラマティック・アマデウス」 ~ 失礼、際物じゃない
2006/7/21

なんだか、奇妙なイベント、でも、お値段も手頃だし、まあ、行ってみるかと安いチケットを確保していた。ごった煮、てんこ盛り、子供まで出汁にした際物というイメージも。モーツァルト記念の年に便乗したドサ回り公演かも知れないと思いつつ…

大変失礼しました。これは至極まともな企画だ。それに、予想をずいぶん上回る水準のパフォーマンスだった。

「ドラマティック・アマデウス」
 PART1  ヤン・フォイテク ピアノ・リサイタル
      モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番より
      モーツァルト:「トルコ行進曲」
 PART2  リムスキー・コルサコフ:歌劇「モーツァルトとサリエリ」
 PART3  モーツァルト:「レクイエム」K.626

「モーツァルトは11歳の時、ウィーンでの天然痘流行を恐れた2ヶ月間のチェコ・オロモウツへの逃避行からの帰途、ブルノのシュラッテンバッハ宮殿に滞在中、レドゥタ劇場でリサイタルを行っている」と、公演の後で読んだ能書きには書かれていた。その劇場がブルノ歌劇場のルーツとか。

ということで、11歳のヤン・フォイテク少年の登場となるわけだ。それらしい衣装とカツラ。ピットにはオーケストラが入っていて、指揮者が登場、舞台の上と下でのコンチェルトが始まる。「トルコ行進曲」他としかアナウンスされていなかったし、私、詳しくないので、どの曲かはっきりとしないが、第23番のコンチェルトの第1楽章のようだ。その後で、「トルコ行進曲」。

とても柔らかな、まろやかな音がするオーケストラだ。ドサ回りなんて失礼極まりない。イタリアのマイナーな歌劇場の、酷いオーケストラで高額のチケットを売る輩に聴いてほしいものだ(もっとも、あれは歌手の値段だけど)。

開演後にも遅れた客を入れるホールの対応は不愉快だが、そんなことに気が散らずに聴けたのは、ヤン少年の素直で伸びやかなピアノもさることながら、とてつもなく上手いとは言えないけれど、オーケストラの暖かい響きに惹かれたから。

歌劇「モーツァルトとサリエリ」は、その存在は知っていても、全く聴いたことがないオペラだ。1幕2場、モーツァルトに嫉妬したサリエリが毒殺を決意する場面と、モーツァルトがサリエリに「レクイエム」作曲にまつわる経緯を語る場面で構成されている(どちらも作り話だが)。

そうか、それで、この後に「レクイエム」を演るんだ。ずぼらなもので、そんなチラシに書いてあることも読まずに聴きに行くのだから。
 でも、それはそれで新鮮な体験になるので、良しとしよう。ロシアオペラらしい低音重視というか、サリエリ役のバリトンが中心だ(モーツァルトはテノール)。チラシには豪華ソリスト陣としか書かれていないし、会場に掲示もなかったし、歌手の名前すら判らない。会場で売っていたプログラムには掲載されていたのかな。1時間足らずの短いオペラ、そんなに傑作とは思えないけど、「レクイエム」への繋ぎで真ん中に入れるというアイディアはなかなかのもの。

休憩後の「レクイエム」は、これもチラシに書いてあったことに後で気がついたのだが、オーケストラはピットの中で演奏する。ソリストとコーラスは舞台上だ。しかも、舞台の左右に別れて、真ん中が大きく空き、そこには舞台装置も。そう、バレエ「レクイエム」だった。

「モーツアルトとサリエリ」の続きと言うか、第二幕が「レクイエム」という趣向。オペラの中で「レクイエム」の引用がされているわけで、とてもうまく繋がっている。字幕が付き、バレエがある。視覚的にも楽しめる「レクイエム」、これはなかなかのアイディア。

週の初め、別の「レクイエム」でがっかりしたばかりだが、40人ほどのコーラスなのに、ボリュームでさえも200人規模のコーラスが足下にも及ばないのには驚きだ。プロとアマの差なのか、固有の文化というバックグラウンドの違いなのか。実力の程度を知らされたサッカー日本代表の如く、ちょっとしたショック。

それにしても、ソリスト、コーラス、オーケストラ、どれをとってもスーパーな才能が見えるわけじゃないのに、そのコンビネーションがほどよく、相互にぴったりと重なり繋がるという感じ。現地で今年1月にスタートしたプロダクションらしいが、しっかりと練り上げられて日本ツアーに臨んだと思われる。

この後、東京ほかを回って、大阪のザ・シンフォニーホールでも公演が予定されている。あのピットのない舞台では、神戸のような演出は不可能、いったいどう処理するんだろう。バレエ抜きかなあ。

大阪よりもチケットが安いので、金曜日の18:30開演で神戸というのは厳しかったものの、何とか駆けつけた甲斐があった。途中で「天むす」のお弁当を買って、ホール横の公園で食べていたら、隣のベンチに座って談笑していた女性二人は、後から思えばソプラノとアルトのソリストだったような。彼女らの出番は1時間半後だし。ホール入口で落ち合った友だちは、何と、老祥記のぶたまん(小龍包)の袋を抱えている。あっ、これ、前に買おうとして店の前に並んだら、直前の客で売り切れた恨みの逸品。だって、おっさん、一人で40個も買っちゃうんだから…。なんだか、ローカル公演らしい一幕。

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