「ミニョン」@びわ湖ホール ~ 半世紀のブランクには訳が
2006/7/22

梅雨明け直前の集中豪雨で各地に被害が出ているが、土曜日は晴れ間がのぞき、ホワイエから望む湖面はもう夏の趣き。隔年開催の「びわ湖の夏・オペラビエンナーレ」という催しの2回目、例年のプロデュースオペラとは別に行われるホールの自主公演。

トーマ「ミニョン」全3幕《日本語上演》
  訳詞:宮本益光(「君よ知るや南の国」訳詞:堀内敬三)
  ミニョン:渡辺玲美
  フィリーヌ:黒田恵美
  ヴィルヘルム:大澤一彰
  ロタリオ:服部英生
  ラエルト:竹内直紀
  フレデリク:丸山奈津美
  ジャルノ:石原祐介
  アントニオ:中西金也
  指揮:大島義彰
  管弦楽:大阪センチュリー交響楽団
  合唱指揮:清水史広
  合唱:びわ湖の夏・オペラビエンナーレ合唱団
     ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団
  演出:岩田達宗
  装置:増田寿子
  衣裳:半田悦子
  照明:柏木法人
  音響:小野隆浩
  舞台監督:佐藤公紀
  舞台制作:牧野優

「君よ知るや南の国」「私はティタニア」など数々の珠玉の名アリアで知られる傑作オペラが50年あまりの年月を経て、日本の聴衆の前に、此処びわ湖ホールで蘇る!

そんな記述が、びわ湖ホールの公演ページにあった。確かに、ついぞ上演の話は聞いたことがなかったし、名前が知られた作品なのにどうしてなんだろうとの思いがあった。しばらく前に、「チケットをお求めいただいておりますが、指揮者が替わることになりますが、いかがなさいますか」との電話がびわ湖ホールからあり、「そのことは承知しています。もちろん、参ります」と返事。カーテンコールの最後に、佐藤功太郎氏の遺影が舞台背景に投影された。

 全曲を聴き通しての印象は、とにかく"長い"。各幕が1時間見当で、2時開演、20分間の休憩が2回で、終演が6時前。無駄な場面やつまらない音楽をカットして、各幕を40分程度に圧縮すればずっと良くなるのになあと…

 オペラ・コミークの作品なので、レチタティーヴォとも語りともつかない部分がずいぶん多く含まれる。オーケストラも薄いものだから、長丁場を響きに身を委ねるといったワーグナー風の楽しみ方も困難だ。この作品を楽しむためには、ミニョン、フィリーヌ、ヴィルヘルムという主役、なかでも女声二人の魅力、歌と芝居が図抜けていないと難しいのではと思う。

 全国からオーディションで選んだとのことだが、結果的にこの日のミニョン、フィリーヌはびわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバー、選ばれるだけのことはあると感じる歌なんだが、それ以上の舞台上のオーラがないと、これらの役は厳しいものがある。作品が、音楽が助けてくれない部分を補って、さらに聴衆を魅了するのは至難だ。

同じくオペラ・コミーク作品である「カルメン」や「ホフマン物語」だと、もともとの音楽に助けられる、聴く側も飽きないということになるが、その域には達していない作品なので、主役の歌手たちの負担は大きくなる。ちっとも悪くなかったし、三人とも上出来の舞台だったのに、「ああ、よかったなあ」というところまで行かないのは、どうもそんなところに原因がありそう。

 訳詞上演ですが、字幕がある。日本語のはずなのに往々にして聞き取れないことが多いので、これは助かる。ただ、今回の宮本益光訳詞の場合、字幕なしでもほとんどが聞き取れる。かなり意を払った言葉のつけ方だったと思う。もっとも、美しいメロディの部分に極めて散文的な言葉が嵌められていて艶消しというところもあり、訳詞の限界も見えてしまう。その点、「君よ知るや南の国」では、往年の堀内敬三訳詞をそのまま使ったというのは賢明な措置だ。

7月だけで、ピットも含め、関西の6つのプロオーケストラを聴いた。うち大阪の4団体は、降って湧いたような統合問題で、メンバーや事務局も危機意識が高まっていると思う。こうして最近の演奏を聴いてみると、各団体とも従来になくピリッとした感じがしてならない。気のせいだけでもないと思う。

いつもセンスのいい岩田達宗演出は、今回も美しい舞台を作っていた。渦巻き状の雲のようなものが描かれた紗幕を通して見る各幕のオープニングはとても幻想的。特に第3幕の冒頭は、湖上を船で渡るシーンで、まさにホールの立地そのもの、舞台の上にも霧の湖が出現したような錯覚さえあった。装置、衣装も、立派なものだ。2年に一度の催しなので、予算面でも奮発したのではないかな。

先頃の滋賀知事選での嘉田由紀子氏の当選により、びわ湖ホール、つまり県立芸術劇場の運営が今後どうなっていくのか興味のあるところ。とりあえずの県政の焦点は新幹線新駅建設計画の凍結の帰趨だが、乗降客の見込めない新幹線の駅に予算をつぎ込むことが"もったいない"なら、稼働率が高いとは言えない立派なオペラハウスももったいないということになりかねない。まあ、こちらはモノが出来て10年近く経っているし、一層の有効活用や活性化ということがテーマになってくると思う。西宮の兵庫県立芸術文化センターという格好の競争相手が出来たところだし、良いほうの変化を期待したいものだ。

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