大植英次/大阪フィルの京都演奏会 ~ 蜘蛛も踊る
2006/9/2

9月に入って急に涼しくなった大阪だが、やはりまだまだ残暑、週末の京都は暑さが戻った。土曜日の午後3時開演、京都コンサートホールでの大阪フィル演奏会は満員盛況。京響定期や昨年の井上道義/大阪フィルの京都演奏会での閑古鳥が気の毒に思える。やはり、大植人気か、大阪からの駆けつけ組も多かったと思われる。やはり京都、客席には和服姿のご婦人も多い。

登場した、大植さん、6月のハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニーとの来日公演以来だが、 えらく横幅が増したのに吃驚。バイロイトが流れて、ゆっくりと夏休みを過ごしたのだろうか、ちょっと太りすぎ。ネット裏、もとい、P席かぶりつきから間近に見た感じだと、BMIは30を超えているのでは。

モーツァルト:歌劇「魔笛」序曲
 ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番(独奏:清水和音)
 チャイコフスキー:交響曲第4番

黒ずくめの舞台衣装は暑苦しい感じだが、夏休みが終わってシーズンの開幕、それにふさわしい力演となる。

3曲のなかではピアノ協奏曲のバックのオーケストラが一番の出来ではなかったかと思う。舞台奥の下手のP席なので、ピアノのタッチはよく見えるものの蓋が邪魔をして、音のほうはこっちには来ない。したがってダイナミクスについては何とも論評しがたいものがある。その反面、オーケストラの音はよく判る。冒頭のピアノに続く弦の厚みとまろやかさは、最近の大阪フィルの面目躍如というところ。大植さんの指揮も伴奏の域ではない雄弁さ。退屈なことが多いコンチェルトだが、これは引き締まった演奏、清水和音さんのファンなのか大植さんのファンなのか、けっこうな盛り上がりだった。

ラフマニノフに比べると、プログラム最初のモーツァルトは小編成なのに、いまいちアンサンブルの精妙さに欠ける印象が残った。チャイコフスキーでは、管のソロ楽器にもう一段の魅力がほしいとは思うが、ずいぶん進歩したのは事実だ。この曲でも、弦の優位が際だっている。この日のように、トップに長原幸太さんが座ったときは全然違う。

この曲の随所に見られる弱音での速いパッセージなど、ほんとうに魅力的。面白かったのは、第3楽章のピィツィカートに合わせたかのように、私の目の前のP席最前列の手摺りを、小さな蜘蛛が横切って行ったこと。トコトコと数センチ進んでは立ち止まり、また進む。まるで、音楽に乗って動いているかのよう。そりゃあ、隣は京都府立植物園だから、ホールの中に蜘蛛の一匹や二匹まぎれ込んでも何の不思議もない。

正対する位置で大植さんの指揮ぶりを見るのは初めて。音楽監督就任の頃に比べると、ずいぶん動きが抑制されてきた。件の第3楽章など、トリオの後は指揮棒も止めてオーケストラに任せるほど。終止直前から第4楽章へのアタッカになって再始動ということ。

アンコール、「アルルの女」の「ファランドール」も同じような感じ。テンポの変化を指示する以外は馬なり。とは言え、そこまでやると、ちょっと粗くなるのは致し方なし。威勢よく盛り上がるのはいいのだが。このアンコール曲とプログラムのメイン、演奏の性格がとても近似している。憂鬱も屈託もないラテンカラーのチャイコフスキーというところか。

このあと、9月3日の日曜日から一週間、大植英次プロデュース「大阪クラシック」というイベントが御堂筋界隈のホールやショールームなどで連日開催される。お昼前から夜まで、オーケストラから室内楽まで、ほとんどが無料で、大植さんがあちこちに顔を出す予定だ。大阪城野外コンサートに続く、多数の市民に向けた企画のよう。なかなか昼間に仕事をさぼって行けないけど…

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