ジェルメッティ/シドニー交響楽団 ~ とってもお得、激安!
2006/10/4

ここ数年、毎年開催されているアジア・オーケストラ・ウィークという催し、文化庁の肝いりで税金が投入されているので、お値段は格安。ザ・シンフォニーホールで普段聴く大阪フィルの定期演奏会とほぼ同じ位置の席、あちらは3100円、こちらはわずか1000円。

毎年、アジア各国のオーケストラを呼んで、東京と大阪で連続公演。日本国内のオーケストラの水準には遙かに及ばない団体がほとんどで、興行的に採算ベースに乗るはずもなく、やはり、「民」ではなく、「官」の領域か。客席の入りはいつも淋しい。

これまでのシリーズでは考えられないビッグネーム、ジャンルイジ・ジェルメッティ指揮のシドニー交響楽団、でもホールは6~7割という入りだっただろうか。ジェルメッティといっても、先日のローマ歌劇場びわ湖公演のピットには入らなかったし、関西じゃ知名度が低いからなあ。

シドニー交響楽団を帯同しての二回の演奏会、こちらはきちんと"契約"が結ばれていたようで、ジェルメッティが指揮台に上がった。指揮台にはスツールが置かれており、なんだか妙な感じだ。ジェルメッティは太りすぎ、顔だけ見たら普通なのに、お腹の出具合が尋常ではない。こりゃあ椅子がいるのも道理、プリモ・ピアットを抜くぐらいのことはしなくちゃ、そのうち歩くのもままならなくなっちゃう。椅子に腰掛け、指揮棒なし、ここぞというツボでは立ち上がって、という指揮ぶりだった。

リザ・リム:「フライング・バナー(王鐸に寄せて)」
    オーケストラのためのファンファーレ (2005)
 ラヴェル:ドゥルシネア姫に思いを寄せるドン=キホーテ
    (バリトン:ホセ・カルボ)
 ラヴェル:組曲「クープランの墓」
 チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

面白いプログラムだ。ご当地作曲家の小品と、ラヴェルのあまり演奏されない作品と有名曲、後半は一転してロシアもの。

「フライング・バナー」という曲は、小品にしては思いのほか長くて、なんだか東洋的なリズムが混交した感じだったが、あとでプログラムを読むと、王鐸というのは中国の書家の名前らしい。銅鐸みたいな普通名詞かと思っていたら、そうじゃなかった。 

ラヴェルの三つの歌曲を歌ったホセ・カルボはアルゼンチン生まれのオーストラリア人のようで、なかなかいいバリトンだ。歌のツボを押さえた指揮ぶり、やはりジェルメッティは歌劇場の人。

ジェルメッティはラヴェルを得意とするようで、管弦楽作品の全曲録音もしているとか。確かに、繊細さと華やかさを併せ持つオーケストラの鳴らし方だ。あまり好きじゃないフランスものの中では、とても好きな「クープランの墓」、オーケストラが上手くなくてはどうしようもない曲だが、楽しめた。

後半の悲愴交響曲、いったいどんな演奏になるのか予想でなかった。結果、大変にさっぱりした演奏。べっとりとからみつくようなところは全くない、響きは濁らず、音響は軽め、明るい"悲愴"ってな感じ。第一楽章の第二主題の歌わせ方など、どうして歌詞がついていないんだろうとさえ思わせるプッチーニ風の呼吸だ。オーケストラなら緩急強弱を増幅して聴かせることは可能なのに、この人の場合は歌の感覚を逸脱するようなテンポやダイナミクスは敢えて採らないんだなあ。随所に、本来はない"声"の存在を感じさせるチャイコフスキーだった。

アンコールには極め付け「セヴィリアの理髪師」序曲、悲愴交響曲のあとに、この曲を持ってきても違和感がないのは不思議というか、不思議でないチャイコフスキーだったと言うべきか。活き活きとした各パート、わくわくするクレッシェンド、「セヴィリアの理髪師、かくあるべし」という演奏。これだけでもお値打ち。みんなまとめて1000円じゃ、激安以外のなにものでもない。

               * * *

びわ湖ホールで「リゴレット」を観たローマ歌劇場来日公演、あのときはジェルメッティの日ではなかったのだが、その日がキャスト変更の騒ぎの始まり。もともと出演予定がないキャストを喧伝し、高額チケットを売った詐欺まがいとの批判が東京公演でも増幅され、ついには「週刊新潮」まで採り上げる始末。

「詐欺!悪徳商法!ファンを激怒させた朝日新聞主催ローマ歌劇場公演」という扇情的タイトルにひかれて購読。新潮らしい底意地の悪い記事の書き方はともかくとして、指摘事項はたぶんそのとおり(あるいはもっと酷いこと)だと思う。でも、大枚はたいた人は腹も立つだろうが、コアなファンは初めからその辺を見越して買わない、あるいは値崩れを待ってセカンダリーマーケットで買っているだろう。新潮の記事に誤りがあるとすれば、記事で言うファンには、コアなファンを含んでいないということか。

そして、土曜の産経新聞朝刊の連載コラム「花田紀凱の週刊誌ウォッチング」

朝日主催のローマ歌劇場公演で、宣伝されていた豪華キャストが次々と病気を理由にキャンセル。ところが、その多くが、他の国の劇場に出演していたというのだから、「詐欺」とののしられてもしかたあるまい。で、『新潮』の結論が痛快。<朝日主催の公演は、朝日の紙面並みに信用が措けない、ということか> 朝日、グウの音も出まい。

まさにトドメの一撃というべきか。

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