大植英次/大阪フィルの「レクイエム」 ~ Sunny Side of Restructuring
2006/12/7

何か月か前に大阪フィルハーモニー合唱団の大粛正のニュースがあった。団員の再オーディションを行い、残ったのは、何とメンバーの1/3だけだったとか。これは、大変にショッキングなことで、オーケストラの専属コーラスのあり方を問う事件だったと思う。

定期公演の芸術的な水準を確保するために満足すべき域に達しないメンバーを斬るべしとする立場、一方で、これが永年オーケストラ活動を支えてきたボランティア集団に対する仕打ちかという立場、もし衝突があったとすれば、双方の論旨は容易に想像がつく。

今回の定期演奏会は、人気の音楽監督が指揮台に立つというだけではなく、演目がヴェルディ「レクイエム」、新生、大阪フィルハーモニー合唱団のお披露目という演奏会だけに、これまでの事情を踏まえると、ある意味では緊張感のある公演になるのは必至だった。

大植英次という人はなかなかの政治家かも知れない。そうでないと指揮者、わけても音楽監督なんて務まらないだろう。新しく合唱団を任された三浦宣明氏に汚れ役を引き受けてもらって、音楽監督自身も不満であったろうコーラスの建て直しを図る…

今回の指揮、さらには演奏後のスピーチでのコーラスのデビューへの言及、定期演奏会では異例のアンコール、モーツァルトのモテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」K.618など、異様なまでにコーラスへの配慮があって、演奏もさることながら、舞台裏事情に思いを馳せてしまう、ひねくれた私。

 ヴェルディ:「レクイエム」
    澤畑恵美(S)
    秋葉京子(A)
    佐野成宏(T)
    ロバート・ハニーサッカー(B)
    大阪フィルハーモニー合唱団
    大阪フィルハーモニー交響楽団
    大植英次(指揮)

プロの世界、舞台裏事情がどうであれ、演奏で結果を出せばいいのであって、言い訳無用だ。結果よければ全てよし。間違いなく、格段に良くなったコーラスだ。定期演奏会で恥ずかしくない水準になった。コロンプスの卵、意外に簡単なことだったのかも知れない。

冒頭のミュート付きの弦に続いての男声の「レクイエム」のコーラス、これまでには聴かれなかったデリケートさだ。コーラスはその後も好調。何のしがらみもなく金を払って聴く立場からすると、今回のリストラは大歓迎だ。もちろん、悲しい思いをしている元メンバーの人たちの気持ちは想像に難くない。でも、彼らの年末「第九」はアマチュアの世界の恒例行事、プロのオーケストラが付き合うものじゃないという認識が定着すれば、12月の音楽シーンが今のような冬枯れでなく、ずっと充実したものになると思うのだけど。

どうも演奏自体から離れてしまう書きぶりになってしまったが、本筋に戻すと、この曲の4人のソリストでは、やはりソプラノが中心だろう。何しろ最終曲はヴェルディの大アリアと言っても過言でない。澤畑恵美さんはよく歌っていたと思う。私の席は3階バルコニーなので、今回のようにソリストが舞台最前列に並ぶと声楽的な論評はしにくくなるが、それでも見事にコントロールされた美声は認識できる。美人だ、この人。いつもチラシに掲載しているちょっと若いときの写真より、今のほうがずっと内面から滲み出すものがあるのに。写真は取り替えたほうがいいのになあ。

秋葉京子、ロバート・ハニーサッカーの二人の低音域は安定していた。佐野さんはいつものように、安定感には欠けるものの、ハラハラしつつも美声は捨てがたいところもあってという感じ。

オーケストラでは、随所に現れるゆったりとした旋律を、慈しむように、愛でるように振る大植英次、その棒の下で演奏する大阪フィルには、ちょっと従来にない新鮮さを感じた。これまで、エネルギッシュに、ブリリアントにというところに目が行きがちだったから。

今日もコンサートマスターは長原幸太さんだが、えらく印象が変わった。ピンと立っていた髪型も普通になっていたし、ヒゲもなくなっちゃった。前のほうが良かったのに。やんちゃ坊主の風貌のままで、トップに座っていてほしいなあ。ヒゲを剃った小笠原選手がジャイアンツでどうなるのか心配なだけに…

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