ウィーン国立歌劇場「ロミオとジュリエット」 ~ Eastside Story?
Vienna 2006/12/20

空港から市内シュウェーデン・プラッツまでバスに乗る。ザンクト・シュテファン寺院の尖塔が見えたら方向を間違うこともない。そこから地下鉄でひと駅、スーツケースをゴロゴロ引いてホテルまで歩いてもよかったんだけど、"U"のマークの入口が見えたし、エスカレータもあるようなので、地下に潜る。

切符売り場でとりあえず一区乗車券を買う。明日は終日ウィーンなので一日券を買うつもり。一人も日本人に出会わなかったザンクト・ガレンから様変わり、モーツァルト生誕250年もあって、日本人観光客が多い。地下鉄ホームに向かおうとしたら、私の後ろで切符売り場でまごまごしているお嬢さんが二人。

「このボタンを押したら英語表示になりますよ。一日券にするんだったら、こっちのボタン、それで表示された金額を入れるんです。もう、いいですか」
「あっ、ありがとうございます」

なんで、15年ぶりにここに来た人間が、いきなり切符の買い方を教えなきゃいけないのか、ヘンな感じもするが、日本人同士、お互い助け合わなきゃ。それで、自分自身が乗車時にタイムスタンプを忘れてしまったのだから世話はないけど。 ^ゞ

指揮 … Bertrand de Billy
 演出 … Jürgen Flimm
 衣装 … Birgit Hutter
 照明 … Patrick Woodroffe
 ジュリエット … Annick Massis
 ロミオ … Giuseppe Sabbatini
 小姓ステファノ … Michaela Selinger
 乳母ジェルトルード … Margareta Hitermeier
 ジュリエットの従兄ティバルト … Marian Talaba
 ロミオの友人ベンヴォリオ … Meng-Chieh Ho
 ロミオの友人メルキューシオ … Eijiro Kai
 青年貴族パリス … Hans Peter Kammerer
 キャブレット家の下男 … Clemens Unterreiner
 ジュリエットの父 … In-Sung Sim
 ローランス神父 … Dan Paul Dumitrescu
 ヴェローナの大公 … Jansz Monarcha

ウィーンで初めてバスタブのあるホテルに泊まる。シャワーだけじゃね。やっぱり日本人、まずはゆっくりと体を伸ばす。それからご飯を食べて、歩いて5分の国立歌劇場に。15年前の記憶を辿り、階段を登る。だいたいこのあたりの入口と見当を付けて、係のおねえさんに尋ねるとドンピシャ。ほんと、こういうことだけはよく覚えている。開演まではまだ1時間近くある。昔、ここで開演時間に遅れ、席に案内されたときにはオペラが始まっていた。ドミンゴのオテロ第一声に何とか間に合ったことを思い出す。

この「ロミオとジュリエット」、ちょうどキャストが入れ替わったところ。直前までは別のコンビ、ローランド・ヴィラゾンとアンナ・ネトレプコがクレジットされていた。この日からは、ジュゼッペ・サバッティーニとアニック・マッシス、若手組からベテラン組という感じだろうか。東洋人が3名キャスティングされている。メルキューシオを歌うのが二期会の甲斐栄次郎、あとの二人は韓国人だろうか。コーラスにも東洋系の人が混じっているから昔とずいぶん違う。そもそも、音楽監督からして我が同胞なのだから、不思議なこともないか。でも、休養中とはいえ、オペラハウスの内外で小澤征爾のオの字も目にしないのは淋しいものだ。

ベルトランド・ド・ビリーという指揮者はまだ若い人、来年に来日予定があるようだ。オーケストラの音、前日ザンクト・ガレンのピットもがんばっていたけど、やはりここウィーンとは比較にならない。コーラスもフランス語できっちりと合う。何だか嬉しくなってしまう。ド・ビリーの棒も元気でメリハリが効いている。

さて、このオペラは主役コンビに極端にウェイトがかかる作品、二人の出来がすべてとなる。それでいくと、両人とも後半に向けて調子を上げていったというところだろうか。

第一幕、マッシス、期待していたのに、ジュリエットの「私は夢に生きたい」は不発に近い印象。音楽に乗り切れていない。どうもこの人はスロースターターのよう。それに先だって、メルキューシオの「女王マブのバラード」があるが、甲斐栄次郎さん、今ひとつ、どうも歌が平板なんだなあ。ここで父キャブレットのシンが聴かせたバスが素敵だっただけに、よけいに残念なところ。サバッティーニも絶好調という感じはない。これまでの見慣れた長髪ではなく、短い髪型で登場したので、「あれっ、これサバッティーニ」と思った。サバッティーニと甲斐さん、前者の歌は表情過剰で、後者はその逆、どちらも役柄の理想型からの逸脱があるように思う。二人のデュエットの場面もあるが、足して二で割ることもできないし…

それにしてもヘンな演出だ。ユルゲン・フリム、よくある現代物への翻案。何のことはない、それなら「ウエストサイド・ストーリー」の二番煎じじゃないか。第一幕のキャブレット家の仮面舞踏会はディスコ・パーティーだし、件のジュリエットの歌はハンドマイク片手にカラオケ風。第三幕の路上での乱闘シーンは、さながらチンピラ同士、ヤクザの組同士の抗争という図。ティバルトのド派手なスーツなんて、まるで「ナニワ金融道」の登場人物のようだ。ここでナイフで刺されるメルキューシオ、派手に演ずるのが甲斐さんだけに、昔の東映映画を彷彿とさせる。この演出、"純愛ものヤクザ映画"というコンセプトかな。そういえば、キモノ様のものを着たコーラスのメンバーもいた。

シンプルな装置、壁、柱、半円の床、そこで展開される演出は好きになれないが、照明はことのほか美しい。なんだかアンバランスな舞台だ。その違和感があるから、第一幕の音楽に集中できないのかも。それは、聴くほうにしても、歌い演じるほうにしても。

そんなに長いオペラじゃなにしても、5幕を休憩一回はつらい。後になるにしたがい主役二人はエンジンがかかって来ただけに、もう少しゆっくり聴きたかった気がする。今回の旅行で、ヨーロッパの劇場は休憩をあまり挟まないのが意外だった。たくさんの日本人客は皆さんそれなりの格好で、身なりで浮いているのは大概アメリカ人観光客のよう。昔はなかった手許の字幕(メットタイトル)が導入されていたのにはびっくり。
 終演後、お腹がすいたので、路上のスタンドで大きなピッツァとビール、しめて5ユーロ。外は寒いのでむき出しのままホテルに持ち帰る。ウィーンなのに、こんなところはまるでニューヨークのよう。

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