アンサンブル・エキサイト演奏会 ~ 軽妙でいて本格派
2007/1/15

「とうちゃん、長原幸太って知ってる?」と、うちのカミサンが産経新聞の記事を見て言う。
 「えっ、し、しっ、知ってるよ。大阪フィルのコンサートマスターで…」
 カミサンに内緒で行っているコンサートが多いだけに、突然の質問に思わず、ギクッ。それは、彼のプロデュースになる室内楽のコンサートの予告記事だった。
 「チケット、買ってきましょうか」

そんなことで、中之島公会堂に出かけることに。淀屋橋で待ち合わせ、元祖オムライス「北極星」で、大好物きのこオムライスを食べて腹ごしらえ、府立図書館に本を返して、隣の中之島公会堂に着いたら、ちょうど開場の時間。「入口はこちらです」との案内で、正面入口ではなくレストラン横の裏手から階段を登る。狭い階段を最上階まで。なんだか、ミラノスカラ座のガレリアのよう。

長原幸太(ヴァイオリン)大阪フィル
 五十嵐美果(ヴィオラ)京都市響
 福野桂子(チェロ)フリー
 神吉正(コントラバス)京都市響
 金井信之(クラリネット)大阪フィル
 中野陽一朗(ファゴット)京都市響
 蒲生絢子(ホルン)フリー
 榎田雅祥(フルート)大阪フィル
 ロッシーニ(ベール):管楽四重奏曲第1番ヘ長調
 ロッシーニ:弦楽のためのソナタ第3番ハ長調
 シュトラウス(ハーゼンエール):もうひとりのティル・オイレンシュピーゲル
 ベートーヴェン:七重奏曲変ホ長調

中之島公会堂の大ホールは何度も来ているのに、こんな天井裏みたいなところに中ホールがあるとは全く知らなかった。それに、けっこう広い。周りに充分なスペースととっても、パイプ椅子が700ぐらい並んでいる。さらに驚くべきは、これが完売だということ。宣伝らしきものはほとんどなかったのに。これも昨年9月に御堂筋界隈で開催された「大阪クラシック」の効果か。8日間、ほとんど無料のイベントのマラソンで、大植英次、長原幸太はじめ大阪フィルの面々が大車輪、2万人近く動員したというのだから。

一緒に行く気になったのは、これはただの客寄せプログラムではないことが、すぐに判ったから。まあ、300人ぐらいは来るかなと思ったら、満員盛況の札止めとは!しかも、楽章の切れ目で拍手が出ないのも驚き。

最初の二曲は同じ曲だ。これを並べて演るとは何とも洒落ている。低予算で演奏者が譜面台のセッティングまでしている間のトークで、「管vs弦のバトル」なんて言っていたが、面白い試みだ。もちろんオリジナルの弦に軍配は上がるが、管の面々も熱演。いくらフルートが入っても運動性やら流麗さでは歯が立たないから、管のアンサンブルでは原曲のニュアンスを伝えることには無理がある。まあ、それはそれで別の面白さを味わうべきなんだろう。

「ティル・オイレンシュピーゲル」、100人規模のオーケストラ曲をたった5人(ヴァイオリン、コントラバス、クラリネット、ファゴット、ホルン)でどう演奏するのか、興味津々だった。これが、とてもエキサイティング、フルオーケストラの華麗さは望めないが、各奏者のかけあいの妙やテクニックの冴えは、全ての贅肉を落とした状態で逆に浮かび上がる。テンポや曲想の変化が大きな作品だけに、その骨組みがはっきりと目の前に現れて、とっても面白かった。

休憩のあとのベートーヴェンは6楽章、45分という長大な作品だけに、自分も含めちょっとしんどいかなと思ったが、客席の集中度は落ちなかったようだ。

「とうちゃんも聴いたことのない曲だけど、各楽章にそれぞれ形式があってね、初めてでもそれが判ったら、聴いてて面白いよ。たとえば第1楽章は序奏付きのソナタ形式で…」なんてことを、あとでカミサンに解説しても、そんなことは無頓着で、「長原クンのヴァイオリンの音って、いいわねえー」
 確かに、彼のソロが大活躍の曲だし、そのとおり。

「彼がトップに座ると大阪フィルの音が活性化する」というのは、ここ何年か聴いてきて実感するところだ。来シーズン、プログラムに魅力がなくて、大阪フィル定期会員を更新しなかったので、長原クンを聴く機会も減りそうだ。それが少し残念かな。

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