関西二期会「秘密の結婚」 ~ 大傑作かも知れない
2007/3/2
仕事が早く片付いたので、阪神尼崎に向かった。前日、関西二期会に電話したとき、最安席は無しとのことだったが、会場のアルカイックホールオクトに着いたら、ちゃんと中央最後部の最安席が残っていた。座席の後ろにカメラが設置されていたので、当日まで売り止めの席だったのかも。逆に舞台を観るならベストポジション、小さなホールだから舞台も近い。
関西二期会・室内オペラシリーズ Vol.17
チマローザ「秘密の結婚」
ジェローニモ:澤井宏仁
エリゼッタ:佐竹しのぶ
カロリーナ:西田真由子
フィダルマ:鈴木さやか
ロビンソン伯爵:東平聞
パオリーノ:林寿宣
管弦楽:エウフォニカ管弦楽団
指揮:奥村哲也
演出:岩田達宗
名高いオペラなのに録音すら聴いたことがない。そんな作品は数少ないが、これはそのひとつ。それがかかるなら、マニアの端くれとしては、行かねばならぬ。チマローザ、モーツァルトの同時代人にして、サリエーリの後継者、ロッシーニに繋がるオペラ・ブッファの傑作(らしい)という予備知識。
無茶苦茶と言ってもいいほどの大団円の強引さ、オペラ・ブッファの台本なんて、荒唐無稽、まあこんなものだが、音楽はとても楽しい。モーツァルトのように軽さの陰に毒を含んだところはなくて、バカバカしいお芝居を彩る歌の数々、全二幕、それぞれ1時間以上だが退屈はしない。舞台は客間のセットで単一、めまぐるしい人物の入れ替わりなのに、四人の黙役のメイドたちをはじめ、動かし方はよく整理されていた。こちらでは毎度お馴染みになってきた岩田達宗演出、安定感がある。
それで、演奏、オーケストラも歌手も熱演と、あっさり論評してしまえばそれまでだが、確かによく練習してきたこと、手抜きなしの舞台であることは、如実に伝わってきた。この作品は傑作であることを知るには充分でいて、でもブッファの愉悦に至るには足りないものがある。極上の声と歌。
叔母フィダルマ役の鈴木さやかさん、性格の悪い姉娘エリゼッタ役の佐竹しのぶさんの両名が、声楽的にまずまず合格点、ほかの人たちは意欲は伝わるものの、このオペラを楽しむためには、もう一段上のレヴェルが必要か。最上の声と歌が得られたら、この作品はとても魅力的だと思う。
ドラマの中心の恋人たち、西田真由子さんのカロリーナと林寿宣さんのパオリーノ、部分的にはいいところ、美しい声を聴かせるところはあるが、全編とおしてみると、良い部分の水準を維持できていない。スーブレットは軽妙というだけではダメで、声に歌に艶がなければ舞台芸術として魅力的じゃない。ときに、カサカサ、キンキンした音色になってしまう西田さんには、今後の進化の余地は充分にある。林さんにも同じようなところが。こちらは、もっとコンスタントに軽く歌えればという感じ。パヴァロッティのような音色を出すパッセージがあったりして、ハッとしたりしたが、この人の場合も安定感が今後の課題かな。
低音部の男声二人、ジェローニモの澤井宏仁さんとロビンソン伯爵の東平聞さん。この二人の問題は対照的です。歌も演技も大車輪であるにしても、澤井さんは力づくのような歌が気になるところが多かったし、東さんはパワー不足を感じさせるところがあった。強すぎる弱すぎるということでは正反対のようでいて、どちらも声の深みという点での掘り下げが必要な感じ。
大阪市内の勤め先から自宅とは反対方向、淀川を渡り尼崎まで行って、つまらない演奏だったら帰り道が遠く感じるところだが、足取り軽やかにではないにせよ、まあ普通に。いずれ阪神と近鉄の直通運転が始まれば、三宮から奈良行が走る。この週末には干満差を利用して安治川の架橋作業が一気に行われるらしい。あと、しばらく。