C.ヤルヴィ/兵庫芸術文化センター管弦楽団 ~ 西宮"のだめ"オーケストラ
2007/3/18

お彼岸の入り、暖冬も過ぎ春を迎えたはずなのに、日中は雪が舞ったりして寒い一日だった。午前中に墓参りも済ませ、お昼から西宮へ。兵庫芸術文化センター管弦楽団の定期演奏会、このオーケストラは昨年の「蝶々夫人」でピットに入ったのを聴いただけで、定期演奏会は初めて。

アダムズ:ダンス音楽「主席は踊る」
 ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
 ベートーヴェン:交響曲第7番
   指揮:クリスチャン・ヤルヴィ
   ヴァイオリン:川久保賜紀
   兵庫芸術文化センター管弦楽団

クラシック音楽なんて聴かないうちの坊主も読んでいる「のだめカンタービレ」、そのテーマ曲とも言える人気急上昇のベートーヴェン第7交響曲が興行的には売り物だが、実はショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲が今回のプログラムの目玉、素晴らしかった。川久保賜紀、ピアニシモの繊細さに加え、歌心があるだけでなく、驚異的なテクニックの冴え。まだ若い人で、これから楽しみだ。

確かずいぶん前に、この指揮者の兄貴(パーヴォ・ヤルヴィ)が諏訪内晶子をソリストに、大阪フィルの定期で同じ曲を採り上げたのを聴いているが、全く違う印象。あのときは、冒頭いきなりソリストの弦が切れリスタートするという事故があったりして、悪くない演奏でしたがやや集中度を欠く感があった。

今回の川久保賜紀、バックにオーケストラがいることを忘れさせるほどの存在感だ。オーケストラの構成楽器であるヴァイオリンだと、ソリストが埋もれる瞬間が多いのだが、この人のヴァイオリンは常に独奏楽器であることを感じさせる。ゆったりとしたテンポの奇数楽章、スピードアップする偶数楽章、対比感が極めて明瞭だ。正確で全く危なげない弾きぶり、ことプロの場合、演奏者はまず技術、全てはそこからということを実感する。第三楽章と最終楽章の間に置かれた長大なカデンツァ、コロラトゥーラが最高音を繰り出す大アリアのときのように、水を打ったような客席、ここは聴かせどころ、まさに鳥肌もの。終楽章が終わるやいなや、客席は言うに及ばず、舞台上のオーケストラ奏者がこぞって楽器を放り出し拍手する図というのも大変に珍しいことだ。

メインプログラム以外の二曲、アダムズの「主席は踊る」と、ベートーヴェンの第7交響曲、良くも悪くもオーケストラの特質が出た演奏だったと思う。若々しく元気いっぱいだが、今ひとつプロオーケストラのレベルとしては物足りないという…

きちんと演奏しているのだけど、特に管楽器群に言えることだが、表情に味がない。アンサンブルがピシッと決まるかと言えば、随所で輪郭がぼやけがち。2年前、この人、クリスチャン・ヤルヴィが大阪フィルに客演したときのようにはいかない。大きなアクションで、メリハリをつけようとかかるところが、オーケストラメンバーに100%は伝わらず、せいぜい70%というのが、客席からも看てとれる。なんだか隔靴掻痒、このあたりが、経験の浅いオーケストラらしい。

まさに西宮の"のだめオーケストラ"、楽員は若く、在籍は最長でも3年、教育目的の色彩も強いオーケストラだけに、歳を重ねた熟成を期待できそうもない。その分、いつもフレッシュと言えなくもなけど。ただ、昨年聴いた「蝶々夫人」のように、8回公演の初日と楽日では見違えるような演奏を聴かせることもあるから、一概には言えない。

今回が第8回の定期演奏会、2年目に突入する4月からは週末2公演(佐渡監督の回は3公演)と鼻息が荒い。この日も完売で最後列には補助席が設けられていた。2000名の会場で2回公演が成功すると、観客動員でもシンフォニーホールでの大阪フィルの定期演奏会を凌ぐことになる。驚きの現象が起きている。これものだめ効果か、潜在マーケットの開拓に成功したということか。確かに、フェスティバルホールやシンフォニーホールでのオーケストラ演奏会の客層とは微妙に違う。一人で来る客が少なく、連れが何人もという人が多い。普段あまりクラシックを聴くことはないけど、近くで、安いし、週末の洒落た暇つぶしににはいいかという感じの人たち。

クラシックの演奏会慣れしない人が多いからだろう、プログラム見返しにはごく当たり前のマナー講座がある。今回、チケットを譲ってくれた人からは、「いい位置の席ですが周り客のマナーがあまりよくないですけど」と聞いいて、演奏中の飴の皮むき音は耳障りだが、まあ気にするほどのこともない。ところが、ショスタコーヴィチでは爆睡していた隣の中年ご夫婦、ベートーベンの第4楽章になって旦那のほうが、ゴソゴソとチラシ袋を探りアンケート用紙を取り出してボールペンをノックして書き始めるではないか。何も今書かなくてもねえ。どうも止めそうもないので、旦那の右手の上に私の左手をそっと置く。妙齢の女性だと痴漢と間違われそうで、そんな危険なことは出来ないが、オッサンならいいか(あまり気持ちよくはないが)。それでも、阪急神戸線か今津線沿線の住人、こちらの意思をすぐに解したようで、静かにアンケートは中止、特段のトラブルには発展せず。ひさびさにマナー向上委員会活動をしてしまった。

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