新日本フィル定期「ローエングリン」 ~ あっちもこっちも体調不良
2007/3/24

今年はじめての東京遠征。昨年末のヨーロッパ大遠征のあとなので自粛モードに入っていたが、そろそろ蟲が動きだす。今はお彼岸、啓蟄も遠に過ぎているから自然の摂理。とは言え、不覚、花粉のせいかと思っていた鼻水が、風邪かなと思ったのが金曜の朝、ちょっと油断してしまった。こりゃ困った。でも、発熱はないので、東京に向かう。

ワーグナー:「ローエングリン」
   (コンサート・オペラ形式)
 指揮:クリスティアン・アルミンク
 演出:飯塚励生
 国王ハインリヒ:トマシュ・コニェチュニ
 ローエングリン:スティー・アナーセン
 エルザ・フォン・ブラバント:メラニー・ディーナー
 フリードリヒ・フォン・テルラムント:セルゲイ・レイフェルクス
 オルトルート:アレクサンドラ・ペーターザマー
 国王の伝令官:石野繁生
 合唱:栗友会合唱団(合唱指揮:栗山文昭)

久しぶりのトリフォニーホール、3階最上段の席に着いたら、場内アナウンス。オルトルートとローエングリンが体調不良とか。それで、代役かと思えば、出演しますとのこと。いきなりエクスキューズというのも困りもの。来日公演ではしばしば起きることなので、またかという感じ。METでも同じようなことはあったし、そこらがそれなりの代役を即時に用意できない日本やアメリカの悲しいところ。電話一本で、誰かがチャンス到来と駆けつけるEU域内とは事情が違う。距離(時差)の暴虐というものか。

昨年末、同じような体調で臨んだ「ホフマン物語」、あのときはデジレ・ランカトーレで、インヴァ・ムーラで、免疫機能が活性化、オペラのあいだに体調完全回復という奇跡が起きたのに、今回、それは成らず。悪化しなかっただけでも、よしとするか。

タイトルロールのアナーセン、アナウンスどおりなんだろう、第一幕はドレスリハーサルの趣き、客を前に歌っているとは思えない感じ。パートのところで声を出していますという程度、これは事前エクスキューズなしなら場内騒然となっても仕方ない歌だ。第三幕で出自を明らかにして大見得を切る場面、そこでは乾坤一擲の歌唱でしたが、それまでは体力温存、省エネ路線を突っ走ったわけだ。確かに、最後に息切れしてしまうよりも賢明な選択かも知れないが、4時間近く付き合わされる身、ましてや体調不良の身としては辛い。うーん。

もう一人の体調不良組、オルトルートのペーターザマー、こちらもお気の毒な感じ。声が荒れるのは体調のせいかも知れないが、悪役としての存在感がいまいち感じられない。あらら。

体調不良ではない国王のコニェチュニ、エルザのディーナー、この両人にも不満は残る。コニェチュニの場合には歌い方のムラ、国王らしい威厳を感じさせる部分と、ゴロツキのように品のない歌いぶりとの間が極端、これは何なんだろう。ディーナー、こちらは、こぢんまりとしたエルザでスケール感に乏しい。美しい響きを感じさせる部分はあるにしても、高音域の不安定さから歌唱全体のインパクトに欠ける。

となると、消去法ではないが、テルラムントのレイフェルクスが今回のキャストでは一番の出来ということになる。生真面目に熱演だが、この役がいくら頑張ってもオペラを引っ張っていくことにはならないし、ましてや、伝令役の石野繁生さんは素晴らしかったのだが、壁を後ろに突っ立って朗々と口上を述べるだけなので得をしているぶん割り引く必要がある。栗友会のコーラスもまだら模様の出来具合。アンサンブルの面白さを感じさせるところと、破綻気味のところと。ただ、終幕の揃いのTシャツは、このシリーズ恒例のようだが、あれは、願い下げだ。なんで、あそこで、あの趣味の悪いブルー。ホワイエでも限定販売とかでしたが、さすがに手を出す人は見かけなかった。制約のあるなかで取り組むホールオペラを一瞬にして茶番に変えるあのTシャツ。これに限らず、演出面では意味不明なところが多い。ダ・ヴィンチ・コードにこじつけたような気もするが、さりとてそれが伝わってくるかというと…

こうしてみると、いいところが何もない公演だったみたいになるが、こちらの体調不良、服用した風邪薬にもかかわらず、居眠りもなしに長丁場を持ちこたえたのは、キャストの面々が体調や技倆に問題をかかえつつも真面目に取り組んだことがわかるのと、オーケストラの健闘ぶりだろうか。

すっきりとしたワーグナーだ。歌い手達の問題を踏まえた対応なのか、舞台にあがって普通にやったのでは無茶苦茶になるのを予見したのか、天井桟敷までは響かないトリフォニーホールということを考慮しても、抑えた演奏だった。厚ぼったいワーグナーより、透明なワーグナーのほうが好みなので、それはそれで歓迎。

私としては、初期の三作を別にして、ワーグナー作品でナマで聴いたことがなかったのが「ローエングリン」だったので、体調不良にもめげず気合いを入れて聴いたということもある。アルミンクという指揮者、オペラの畑の人ではないと思うが、毎年、定期演奏会で意欲的に採り上げているのは立派だ。わが地元の大阪では、大植英次がバイロイトでの挫折以来、オペラから足を洗ったようにしか見えないだけになおさら。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system