東京テアター「ミカド」凱旋公演 ~ 感性の溝か
2007/3/25

東京の週末、オペラ二本立てを、初台じゃなく、錦糸町、池袋とは下町指向もいいところ。新国立劇場では「運命の力」と「蝶々夫人」という両巨匠の名作だけど、歌い手との相性が悪そうで、これまで観たことのない「ローエングリン」と「ミカド」という選択に。

しばらくニューヨークで暮らしていたころ、休日のテレビでちょんまげを付けた大柄の白人歌手が歌っている奇天烈な映像を見たことがある。それも一度ならず。いま思うと、どうもあれが「ミカド」、そのときは聴き通していないので断言できないが、英語圏での作品の人気を考えると、その可能性は高い。ヨーロッパでオリエンタリズムが一世を風靡した時代、この日初台でかかっている「マダム・バタフライ」とほぼ同じころに生まれたオペラだ。

外題ばかり有名で国内で上演される機会は滅多にないだけに、前に東京にいたときに聴き逃していることもあり、池袋の東京芸術劇場中ホールへ。ここは私は初めて、このオペラにはサイズも適当だ。私が聴き逃したあとで、英国のギルバート&サリバン・フェスティバルに参加したらしく、今回は凱旋公演と銘打っている。記念のメモ帳をくれたり、おまけ「ミカドパン」付きのプログラムが売られていたり。

ヤムヤム:薗田真木子
 ナンキプー:布施雅也
 カティシャ:勝又久美子
 ココ:吉川誠二
 ピティ・シン:関真理子
 ピープ・ブー:北條聖子
 プーバー:細岡雅哉
 ピシュタッシュ:太田代将孝
 ミカド:鹿野由之
 指揮:榊原徹
 東京劇場管弦楽団・合唱団
 演出:藤代暁子

前日のワーグナーの大管弦楽に比べたら、5分の1ぐらいかな。編成だけじゃなく、音楽の重量感も天地ほどの違い。お話はナンセンス・コメディで全二幕、そうか、これがサヴォイ・オペラというものか。正直なところ、どうしてこれが大ヒットしたのかよく判らないという感じ。つまらなくはないけど、抱腹絶倒でもないし、格段に音楽の魅力があるわけでもない。これを面白いと感じる英語圏の人たちと私には感性の違いがあるんだろう。これはミュージカルの源流か。ブロードウエイでただ一度だけミュージカルを観たことがあるが、まるで興味を持てず、METやシティオペラに入り浸ったことを思い出す。総合的なエンターテインメントなんだろうけど、音楽も歌も芝居も中途半端で、突き抜けた充足感がないという…

ともあれ、この「ミカド」、上演を重ねてきただけに、こなれた舞台に仕上がっている。日本語による歌唱だが、ありがちな何を言っているのか判らんということはない。歌の水準も立派なものだと思う。ところどころに英語の歌詞が挿入されるが、それがオリジナルなのかどうか私には判らない。皇太子ナンキプーを追い回す女官のカティシャをカミラになぞらえるなど、王室をコケにする英国の伝統が歌詞にも生きている。その伝でいけば、最近何かと話題の多いわが皇室がらみのギャグが飛び出してもおかしくないが、さすがに不敬罪のそしりを受けそうなのでそれはなし。ここらも同じくロイヤルファミリーを持つとはいえ、日英のカルチャーの違いか。

このオペラの原題、サブタイトルが The town of Titipu、それが秩父のことなのかどうか定かではない。猪瀬直樹「ミカドの肖像」、宮澤眞一「秩父びっくり英国物語」などに、そのあたりのことが書かれているが、私が読んだ限りでは決定的な証拠は何もない。まあ、ひとつの冗談と考えればいいことかも。間奏曲がわりに秩父屋台囃子が挿入され、これはなかなかの聴きもの。英国公演でも演ったのだったら、ウケけそうだ。

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