スロヴェニア国立マリボール歌劇場「ラクメ」 ~ 80年に一度、ということは
2007/4/18

冷たい雨の中、勤務先から徒歩15分、連日のフェスティバルホールへ。ホールの中ではいつもの最上席なので暑いぐらい。日本では80年ぶりの上演とかのドリーブの「ラクメ」。そのサイクルだと、もう二度とということなので、はずすわけにはいかない。

ラクメ(巫女、ニラカンタの娘):デジレ・ランカトーレ
 ニラカンタ(バラモンの高僧):エルネスト・モリーリョ・オイト
 マリカ(ラクメの僕):イレーナ・ペトコヴァ
 ジェラルド(英軍士官)チェルソ・アルベロ
 エレン(ジェラルドの婚約者):サビーナ・ツヴィラク
 フレデリック(ジェラルドの友人):ヨージェ・ヴィディッツ
 ローズ(エレンの友人):アレンカ・ゴタル
 ベンソン夫人(家庭教師):スベトラーナ・チェルスィナ
 アジ(ニラカンタの僕):ドゥシャン・トポロヴェッツ
 指揮:フランチェスコ・ローザ
 スロヴェニア国立マリボール歌劇場管弦楽団・合唱団・バレエ団

前日のガラコンサートからこの日の状況は予想できたが、当たったところと外れたところと。

テノールのアルベロはちょっと心配だったが、意外にも尻上がりの好調で、ラクメ一人かなという危惧が外れた。第一幕では軽めの声で省エネ唱法という様相だったが、第二幕になって俄然声も前に出るようになり、ラクメとの二重唱など熱のこもった歌いぶりだ。前日のアリアでがっかりしたギクシャク感もなくて、なかなかの出来だ。

悪いほうに予想が当たったのはランカトーレの不調。第一幕の登場のシーンから、音がピタッと決まらない感じがあった。舞台を観るのは初めてなので、あそこで歌っているのはラクメ、それとも誰か脇役、と思ったほど。一瞬にして劇場の雰囲気を変えるプリマドンナの第一声にはとても聞こえない。

第二幕の冒頭、例のアリア(「鐘の歌」)に入る直前のアクートで高音がひっくり返りそうになるトラブル、この先どうなることやらと思ったが、アリア本体部分は破綻もなく、何とか歌いきった。ただ問題はパッチワークのように声質が移ろうことだ。この4か月で三つのオペラを聴いたが、今回がいちばん気になる状態だ。

グルベローヴァを聴いた直後ということで、どうしてもあの水準を尺度にしてしまうこともあるが。ランカトーレ、不調と言うより、ヴォイストレーニングをしっかり積んだほうがいいような。あまりに早く売れっ子になってしまって、地力が追いついていない感じがする。これは危険な兆候。力を貯めて、黄金の30代・40代を迎えてほしいものだ。

インドの巫女ですから舞台衣装はヘソ出しで、おとうさんには嬉しいところだが、挿入されたバレエのダンサーたちの素晴らしい腰の線と比べると、ランカトーレはちょっと肉あまり気味、オペラグラスで目を凝らしても横隔膜の支えを確認するに至らなかった。

難物のアリアがあるということもあるのだけど、この作品がほとんど上演されないのは、ドラマの弱さに起因するとろが大きいと思う。英軍士官が忍び込んだバラモンの聖域で見かけたラクメと瞬時に恋に落ちたかと思えば、その前後では婚約者といそいそとなのでヘンだ。聖域を冒涜したといっても、それだけでニラカンタがジェラルドの命を狙うのも判らないし、刺殺されたはずのジェラルドがラクメの介抱であっさり回復というのも強引だし、ラクメとともに暮らすつもりになった次の瞬間には同僚の呼びかけで軍に復帰、もう無茶苦茶と言っていいぐらい。

まあ、そんなことを言っていたらオペラなんて観られないし、文楽人形浄瑠璃なんて開いた口が塞がらないようなプロットはざらにあること。このオペラ、美しい音楽がいっぱいだし、それを楽しめばいいことかも。

オーケストラとコーラスは予想どおり、前日よりいい感じ。ピットの周りに壁をつくるようなことはなく、歌劇場のオーケストラらしい舞台と一体になった雰囲気のある音、職人指揮者の貢献かも知れない。ドラマはご覧のとおりのデタラメでも、フランチェスコ・ローザの作る音楽はメリハリがあって退屈はしなかった。総体としてはお勧め公演かと思う。このあとの東京公演はチケットの売れ残りが多いようで、とうとう半額セールも始まったようだ。これを逃すと、次はないかも知れない、これは「買い」だろう。

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