大植英次/大阪フィルのベートーヴェンチクルスⅠ ~ 定期演奏会よりも
2007/6/5

楽団創立60周年、音楽監督就任5周年、そんな節目に4回に分けてベートーヴェンの交響曲を番号順に演奏するという企画、どうも今シーズンの力点は定期演奏会よりもこちらにあるような感じだ。第一夜を聴いてみて、その印象がさらに強まった。昨シーズンの最後、定期会員をやめる直前に会員割引で通しチケットを買っておいて正解かな。通路に補助席まで設けられていて超満員。

ご多分にもれずクラシックを聴き始めたころは、ベートーヴェンのシンフォニーは定番、お小遣いを叩いては色々とレコードを買っていたものだ。そのうちに、オペラのほうがずっと面白いや、ということになり、枚数は多いし、公演に出かけることも多くなると一層の金欠状態に。なので、まともにベートーヴェンをコンサートで聴くことなど、ついぞなかった。

この日、視覚的にあれっと思ったのは、第1交響曲からすでに第1ヴァイオリンが16丁という大編成、対向配置でコントラバスが中央後方に並ぶ。そして大植さんは譜面台なしは普段どおりとしても、タクトなしでの指揮。5年経って、シンフォニーホールでの指揮ぶりがずいぶん変わった。表情の豊かさはそのままだが、大袈裟な身振りは影を潜め、ときに手の動きさえ止めて、オーケストラに任せるところが見受けられる。朝比奈時代から数え切れないほど採り上げてきた演目ということもあるでしょうし、大阪での5年で培ったこのオーケストラとの絆ということもあるのだろう。

今回の演奏を聴いて、巷間に流布するベートーヴェンの交響曲についてのコメントとの相違を感じたところががいくつか。その1、奇数番号は雄渾で男性的、偶数番号は優美で女性的、というのは間違い。その2、英雄交響曲で飛躍的な進化を遂げたというのも間違い。

つまり、休憩前に演奏された第2交響曲の演奏がすこぶる印象的だったのだ。もうこの曲はそのまま英雄交響曲に続いていくスケール感と力強さを備えた曲だし、進化のギャップということで言えば、第1交響曲と第2交響曲の間のほうがずっと大きいということ。後半に演奏された英雄交響曲も、昨年の御堂筋シリーズで同曲を聴いた友人によれば、はるかに引き締まった演奏だとのことで、このシリーズにかける意気込みが違うのだろう。

定期演奏会と違い、真ん中で大概は"しょうむない"コンチェルトに付き合わされることなく、一人の作曲家の交響曲作品を順にというのは、聴く側の集中力も求められるが、演奏する側の気合いが入れば充実度が断然高くなる。それが如実に表れたのが第2交響曲。次回、8月は4・5・6番ということなので、こりゃ大変だ。この日も、終演は21:30になりますとわざわざ掲示が出ていたのは、ご愛敬。

昔の音を知っている者にとって、ピシッと焦点が合い、反応のいい大阪フィルのアンサンブルを聴けるようになったことは、紛れもなく現音楽監督の功績と評価できる。昔を懐かしむファンもいるかとは思うが…

大阪城や御堂筋、アウトリーチ活動が注目されがちな大植さんだが、あくまでもベースはシンフォニーホールでの演奏会、予想以上の出来のベートーヴェンチクルスのスタートで、ご同慶の至り。

難を言えば、録音、録画が残るのか、やたら多くのマイクロフォンがぶら下がっているのと、テレビカメラがチョロチョロ動いて目障りな点、そして久々にトップに座った長原幸太コンサートマスターの音がセクションから浮いて聞こえること。後者については、二階RBブロックという位置の関係もあるが、今回より強く感じた。15人がサボっている訳じゃないにしても、音量的にも音色的にも彼が突出してしまうというのは、どういうことなんだろう。

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