指揮者なしの大阪フィル定期演奏会 ~ 緊急事態、異例ずくめ
2007/6/14

ベートーヴェン・チクルスに続いて、6月の定期演奏会、ここしばらくオペラもなく、大阪フィルばかり聴いている。今回はフォーレとブラームスというプログラム。それが大変なことに…

フォーレ:レクイエム
  中嶋彰子(ソプラノ)
  三原剛(バリトン)
  三浦宣明(合唱指揮)
  大阪フィルハーモニー合唱団
 ブラームス:交響曲第4番ホ短調

年に四回、音楽監督が振る定期演奏会は最近ではほぼ完売、補助席まで出る盛況ぶりで、梅雨入りのウィークデーにもかかわらず客席は埋まった。開演時刻になったところで場内アナウンス、大植さんが体調不良でドクターストップ、レクイエムは合唱指揮者の三浦宣明さんが代演、ブラームスは指揮者なして首席コンサートマスターの長原幸太さんのリードによって演奏するとの内容だった。

永らくコンサートに通っていますが、こんなことは初めて。コンサートマスターの弾き振りと言っても、モーツァルトあたりと違い実質指揮者なしに近い。マーラーやショスタコーヴィチならまず不可能なことだが、ブラームスだとその限界点ぐらいか。いずれにせよ、異常事態。

半年前にヴェルディのレクイエムでデビューした新生大阪フィルハーモニー合唱団、ずいぶんデリケートな響きが出せるようになった。大改革(リストラ)の担い手である三浦宣明さんの功績であることは間違いないだろう。通常なら黒子の合唱指揮者が指揮台に立ち、オーケストラも振ることになったが、やはり印象は合唱指揮者、丁寧にコーラスのニュアンス付けは出来ても、オーケストラのほうまで手が回らないのは致し方のないところ。オーケストラ伴奏の合唱曲の趣きは否定できない。二人のソリストは悪くない感じ。三原剛さんはコーラスの前方、中嶋彰子さんは舞台奥のオルガンの横という配置、中嶋さんは楽譜なしでご立派。しかし、そんなことはプロの歌手なら当たり前のことだけどねえ。構成力が要求されるアリアと違って、情感で訴えられる曲では彼女の美質が素直に伝わります。

さて、問題のブラームス。この日のゲネプロ後に大植さんがダウンということだったので、いちおうは仕上がっているはず、しかし指揮者なしの本番が本当に大丈夫かとの懸念はあった。そして、第一楽章が終わったとき、期せずして会場から拍手が。その数人のうち一人が私。

もちろん、わずかにリズムがずれるとか、ちょっと危ない箇所もいくつかあった。フォーレにも言えたことだが、ダイナミックな緩急の変化はほどほどに、安全第一という部分も目に付いた。ただ、安全運転専一では面白くも何ともない訳で、第一楽章のコーダなんて結構アクセルを踏んでいて、ピタッと決まる爽快さ。おお、指揮者なしでよくやった、さすがプロ、という拍手だった。

続く第二、第三楽章は何とか進んでも、終楽章のパッサカリアはどうなるんだろうと心配した。しかし、これも破綻なくクライマックスに。普段より椅子のポジションを上げて弾いていたと思われる長原さん、シドニーの高橋尚子のように、終盤は眼鏡をうっちゃっての渾身のリード。きっと汗と熱で曇って使い物にならなくなったんだろう。演奏後は大植監督のときと同様かそれ以上の拍手喝采。指揮者じゃないので、要領がわからず戸惑う長原さんに、プルト裏に座ったもう一人のコンサートマスター、ベテランの梅沢さんが、いったん袖に引っ込めだとか、ソリストを立たせろだとか、横から囁いていたのが何とも微笑ましい。

会場では払い戻しの受付をしており、終演後にちゃっかり手続きするセコい輩も見かけましたが、滅多に見られない聴けないもの、これはおひねりを投げたいぐらいだ。

翌日、大阪フィルのホームページには以下の「謹告」が載っていた。私が大阪フィルに電話してみたのが5時過ぎだったので、その時点では未定。でも結局、この日も休演となったようだ。

昨日6月14日の第409回定期演奏会におきまして、音楽監督の大植英次が演奏会直前に体調不良を訴え、指揮することが出来ませんでした。代わりに前半のフォーレ/レクイエムを合唱指揮の三浦宣明の指揮で行い、後半のブラームス/交響曲第4番は指揮者なしで演奏いたしました。大植は現在、市内の病院にて診断を受けており、本日15日の定期演奏会は直前まで様子を見、午後5時30分に出演の判断をさせて頂きます。尚、大植が出演出来なかった場合は、昨日と同じ形で演奏会を行いますので、お客様には事情ご賢察の上、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。払い戻しにつきましては本日、会場の窓口にて受付させて頂きます。

めまいを訴えて病院にとのことなので、MRIやRIの検査だろうと思う。たぶん過労によるものかと思うが、2月の頸部のトラブルとの関係も心配だ。ハノーファー、バルセロナ、大阪と飛び回り、演奏会場の外での活動も多いから、年間通してきついスケジュールになっているのでは。今年に入って定期演奏会のキャンセルが二度というのは、すこし仕事量のコントロールが必要かも。無理は禁物。

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