テアトロマッシモ「カヴァレリア…」・「道化師」 ~ 予想どおりのらしさ
2007/6/23

去年の今ごろはドイツでのワールドカップで盛り上がり、来日オペラではボローニャにメトロポリタンという大物が続き、お祭り騒ぎの大忙しだった。うって変わって、今年の寂しさ、懐具合を考えれば、よろしいことだが。シチリアのパレルモの劇場の来日、マイナーなところにしては価格設定はあまり財布に優しくない。

マスカンニ:「カヴァレリア・ルスティカーナ」
  サントゥッツァ:マリアーナ・ペンチェーヴァ
  トゥリッドゥ:フランチェスコ・アニーレ
  アルフィオ:アルベルト・マストロマリーノ
  ローラ:ソニア・ザラメッラ
  ルチア:マリア・ホセ・トゥルッル

 レオンカヴァッロ:「道化師」
  カニオ:ピエロ・ジュリアッチ
  ネッダ:スザンナ・ブランキーニ
  トニオ:アルベルト・マストロマリーノ
  シルヴィオ:ファビオ・プレヴィアーティ
  ペッペ:アメデオ・モレッティ

  指揮:マウリツィオ・アレーナ
  演出:ロレンツォ・マリアーニ

梅雨のさなかの晴天、湖岸を気持ちのいい風が渡るびわ湖ホール、連日の完売とは予想外だ。東京と違ってここは当日会場でのチケットのやりとりが極めて少なく、行けば何とかなるさが通用しないのが辛い。ドイツ系ばかりが目立つ今年のラインアップ、干天の慈雨ではないが、テアトロ・マッシモ、いい時期に来日したと言えなくもない。招聘元の作戦勝ち。

予想どおりだったのは、イタリアオペラ、なかでもヴェリズモ代表作のダブルビルに求めたい「らしさ」が見事に出ていたこと。オーケストラとコーラス、洗練度ではメジャーハウスと比ぶべくもないが、言わば「ヘタウマ」、何とも雰囲気がある。マウリツィオ・アレーナの指揮は極めてオーソドックスというか常識的、テンポは遅すぎる一歩手前で、だれてしまっても不思議じゃないのに、その流れのなかで奏者や歌手たちの歌いまわしというか、呼吸というか、何とも言えない味があるのが、ご当地ものの所以か。まさに、それぞれ、ルスティカーナであり、ルスティカーノという感じ。それは悪い意味じゃなく。

ソリストで目立ったのはトゥリッドゥを歌ったフランチェスコ・アニーレ、前奏曲のバックに舞台裏から入るシチリアーナから聴かせる。直情径行の役柄にぴったりのリリコスピント、見かけは小太りのおじさんテナーだが、声にはとても魅力がある。最初の演目、「カヴァレリア・ルスティカーナ」の幕開き5分で、「おっ、今日はいける」と感じさせた。ふつうはサントゥッツァがメインロールとされるこのオペラだが、この公演では間違いなくトゥリッドゥだ。

開幕に先立ち舞台袖から登場する劇場関係者、ありがちな出演者不調のお知らせ。そのサントゥッツァ役のマリアーナ・ペンチェーヴァ、確かに体調不良なんだろう、一生懸命だが声は安定しない。まあ、トゥリッドゥ役が随分よかったので救われた印象。

声楽的には「カヴァレリア・ルスティカーナ」のほうが充実していた。「道化師」のソリストたちは私の好みの問題かも知れないが、いずれも声が荒れ気味。熱演ぶりは充分伝わってくるのだが。そりゃ、こういうオペラをずっと歌っていると声にはよくない。

両作品とも舞台装置は共通、半円形に少し高くなったステージを中央に置き、右上方にアーチ状に大階段がせり上がるというセット。「カヴァレリア・ルスティカーナ」では教会に続く階段という設定で、「道化師」では芝居の観客席となる。前者は暗く、後者は明るめと、両作品で色調の変化をつけている。同じことは衣装にも言えて、前者ではシチリアのその時代や地方色を感じさせるくすんだトーン、後者では一転、1920~30年代あたりのモダンコスチューム、対比感が際だっている。「道化師」に登場する地元の大津児童合唱団、東京ではそちらのこどもたちになると思うが、彼らに結構細かな振付がなされているので目を引く。何か意味があるのか、彼らはふつうの格好(合唱団のブラウスとスカートか)で登場しているのが不思議。ポップな感じと言ってもいい派手な色彩とデザインが横溢するコーラスの衣装とのコントラストが面白い。

夏至の直後、17時を回った終演後も日は高い。汗ばむような日差しのなか、湖岸を散歩、びわ湖ホールのときの定番となったヴュルツブルグ(湖岸のレストラン名、大津と姉妹都市)へ。なぜかイタリアオペラのあとで、ドイツ料理とドイツビール。もう夏。

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