読売日響の「イオランタ」 ~ メルヘンに真実を吹きこむ
2007/10/13

定期演奏会では異例の長時間プログラムだ。45分ほどのオーケストラ作品に100分ほどのオペラという組み合わせ。過激スケジュールのゲルギエフほどではないにせよ、ロジェストベンスキー、かなりのお歳なのに、ロシア人は体力があるなあ。

チャイコフスキー:組曲第2番
 チャイコフスキー:歌劇「イオランタ」
 イオランタ(ソプラノ):佐藤美枝子
 プロヴァンス王レネ(バス・バリトン):成田眞
 ブルゴーニュの騎士ボデモン(テノール):経種廉彦
 ブルゴーニュの侯爵ロベルト(バリトン):成田博之
 エブン=ハキヤ(バリトン):太田直樹
 マルタ(メゾソプラノ):菅有実子
 ベルトラン(バス・バリトン):畠山茂
 アリメリク(テノール):大槻孝志
 ブリギッタ(ソプラノ):安藤赴美子
 ラウラ(ソプラノ):黒木真弓
 合唱:武蔵野音楽大学
 指揮:ゲンナジー・ロジェストベンスキー
 読売日本交響楽団

組曲第2番、たぶん初めて聴く曲だと思うが、必要以上に長いし、正直なところ退屈だ。久しぶりに聴く読売日響は、在京オーケストラでは一番かなとも感じるが、近くの席からは盛大な鼾が聞こえてきた。私も集中力が途絶えてしまって…。まあ後半の演目がお目当てなのでいいようなものだけど。オペラだけのプログラムで充分なように思える。

「イオランタ」、CDで聴いたことはあるが、実演は初めて。休憩なしなので、これまた結構ながい。演奏会形式でソリスト達がオーケストラの中、弦と管のあいだに陣取るという配置は初めて見た。ブラスの後ろでは声がかき消される虞があるからなのか、それとも他に何らかの意図があってのことか。オーケストラとの緊密さという点では成功していたと思う。

盲目の王女が、そのことを自覚させないような配慮のなかで育てられ、美しく成長したとき、伴侶となる男性と巡り会い、初めて自分は目が見えないという残酷な事実を知る。しかし、見たいという強い意志をもって手術を受け、ついに視力を得るに至るというおとぎ話。誰ひとり悪人が登場しないハッピーエンドのメルヘンだ。

王女と取り巻きの女性たちのアンサンブルで始まる前半はいささか退屈、マルタ役の菅有実子さんの声の存在感が強いのに比べると、タイトルロールの佐藤美枝子さんの声が弱い。「あれっ」と思う出だしだが、ボデモンと出会い、二人のデュエットが始まると様相が一変する。

経種廉彦さん、これまで小さい役で聴いているはずだが、今回の歌唱には随分と進境を感じました。そして、ここからの佐藤さんが聴きもの、声も出るようになったし、何より歌に心がこもっているのが素晴らしい。おとぎ話として上滑りするのではなくて、異性への憧れ、盲目の事実を知った衝撃、自分の眼で見たいとの希求、光を得た歓び、こういった感情がきちんと表現されているだけでなく、聴く側の胸を打つ次元にまで高められている。コンクール優勝の頃からテクニックには間然するところがない人だが、最近の歌には膨らみと豊かさが感じられる。大阪のともだちは、翌週の「モーゼとアロン」(シェーンベルク)、「ルプパ」(ヘンツェ)を狙って上京の予定だが、へそ曲がりにこの週にしたのも、佐藤さんがクレジットされている公演だから。演奏会の最後の30分ぐらいが肝だったが、それだけでも充分な当たり。

最近、職場が替わり、いま後任者に引き継ぎの最中。この人が眼の手術を受けたばかりで、視力の回復までには時間がかかりそうな状況だ。そんなときに「イオランタ」を聴くというのも何かの巡り合わせのような気がしてならない。

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