関西二期会「ナクソスのアリアドネ」 ~ 舞台という拡散
2007/10/28
尼崎のアルカイックホールに来たときの定番、モンパルナスのピロシキ。終演後だと売り切れが予想されるので、阪神電車を降りたらすぐにホールとは反対方向、駅構内南口のお店に直行。ある年代以上の大阪人なら知らぬものはなかった本家は倒産しても、分家はどっこい生き延びて同じ製法と味は継承されている。午後2時という早い時間のおかげ、お店の奥には山のようにピロシキが。あんなにいっぱい売れるとは。そして、お土産の5個入ボックスをデイパックに入れたはいいが、蓬莱のぶたまんほどじゃないにしても、ロシアの肉まん、美味しそうなにおいが漏れてくる。
関西二期会の「ナクソスのアリアドネ」、年明けの新国立劇場での地域招聘公演が決まり、しかもチケットは既に完売とか、結構なことだ。地元での公演は土日でダブルキャスト、東京では中1日のシングルキャスト、日曜日に聴いたメンバーが、ほぼ東京遠征の顔ぶれとなる。
執事:木川田澄
音楽教師:萩原寛明
作曲家:福原寿美枝
テノール歌手/バッカス:竹田昌弘
士官: 角地正直
舞踏教師:二塚直紀
かつら師:服部英生
下僕:木村克哉
ツェルビネッタ:日紫喜恵美
プリマドンナ/アリアドネ:畑田弘美
ハルレキン:大谷圭介.
スカラムッチョ:八百川敏幸
トルファルディン:藤田武士
ブリゲルラ:馬場清孝
ナヤーデ:福嶋千夏
ドリャーデ:宇野宏美
エコー:岡本寿美
指揮:飯守泰次郎
管弦楽:関西フィルハーモニー管弦楽団
演出:松本重孝
「ナクソスのアリアドネ」は2年前、ほぼ同じメンバーで、関西フィルの定期演奏会で採り上げている。今回はその舞台上演、まだ前回の好演の記憶が残っているので期待して臨んだが、結果はまずまずの水準というところか。
この日の舞台、演奏会形式で見られたような集中力が欠け、なんだか拡散してしまった印象か否めない。特に、序幕にその傾向が顕著。登場人物が多くて目まぐるしい舞台の動き、どうしても演技付きだと個々の歌もアンサンブルも粗くなる。飯守泰次郎指揮の関西フィルも今ひとつの音だ。序幕での中心ロールは作曲家だが、この役の福原寿美枝さんも本調子ではなく、力みからか強引な発声が耳につき、余裕が感じられず、聴く側も楽しめない。あれれ、ハズレ公演かなという予感。
休憩後の"オペラ"になって持ち直した感じ、セリアとブッファが交互に展開して流れが整然とするせいもあるが、歌い手にも余裕が出てきて安定した。二人の主役、畑田弘美さん、日紫喜恵美さんとも、これまでに聴いたそれぞれの役のベストとは言い難いにしても、東京に行っても恥ずかしくないレベルであるのは間違いないところ。
日紫喜恵美さんは芸達者な人で、その点ではツェルビネッタは填り役です。ただ、声楽的には破綻はないにしても、一杯いっぱいのところがあり、余裕は窺えないし、これからの発展も難しいだろうなあというところはある。でもまあ贅沢を言っても仕方ない。ちょっとこの役では私は凄い歌を聴き過ぎている。
本業のほうでも何かと大変だと想像する竹田昌弘さん、絶好調の輝かしい声で聴きごたえがある。この人の場合、ちっともドイツ語に聞こえないというのがどうかなという気はするが。
折角の舞台上演だけど、演奏会形式に及ばなかったのは辛いところ。幕切れの装置転換、作曲家の登場、アリアドネとバッカスのベッドシーンの暗示など、演出の工夫は随所に見られましたが、総じて言えばオーソドックスなもの。ずいぶん前の関西二期会公演時の演出の再演だったようで、今となれば、あまり目新しさはない。チューリッヒでクラウス・グート(来年に「フィガロの結婚」の来日公演が予定されている)の刺激的な舞台を観たあとでは、どうしても古くささを感じてしまう。
ともあれ、新年の初台での公演の成功を期待したい。2000人のアルカイックホールと違い、中劇場での公演なので、オーケストラも弦を増強しなくてもオリジナルの編成で充分だし、歌い手の負担も少なくなる。興行的には、完売するんだったら大劇場(オペラパレス)でとの発想もあるだろうが、演奏本位で行くなら、やっぱりこのオペラは中劇場に相応しい。