ナタリー・デセイのリサイタル ~ ヌーボーの日に
2007/11/15

オペラシティのクリスマスツリー

午前中、事故の影響で遅れたJRも夕方には正常運転、群馬での仕事を終えて6時過ぎには新宿に。小腹が空いたので、オペラシティのB1でちょっと休憩したら、折しもクリスマスツリーの点灯式だ。華やかなツリーの前ではバンド演奏、立ち止まって眺めていたら、大きなトレイに小さなプラスティックのコップを満載しておねえさんが回っている。ありがたく頂戴、そうか、今日は11月の第3木曜、ツリー点灯式に振舞酒とは、まことに結構なこと。何杯かおかわり、ごちそうさま。

でも、本当のご馳走は、7時からのナタリー・デセイのリサイタル。今や世界中のオペラハウスでディーヴァの名をほしいままにしている人だが、私はまだ聴いたことがなく、期待が高まる。

ロッシーニ:「セミラーミデ」序曲
 ドニゼッティ:「ランメルモールのルチア」より「あたりは沈黙に閉ざされ」
 ドニゼッティ:「ロベルト=デヴェリュー」序曲
 ドニゼッティ:「ランメルモールのルチア」より狂乱の場
       * * *
 ヴェルディ:「シチリア島の夕べの祈り」序曲
 ヴェルディ:「シチリア島の夕べの祈り」より「友よ、ありがとう」
 ヴェルディ:「椿姫」前奏曲
 ヴェルディ:「椿姫」より「ああ、そはかの人か~花から花へ」
       * * *
公演のチラシ  プッチーニ:「ボエーム」よりムゼッタのワルツ
 マスネ:「マノン」よりマノンのカボット
 ヴェルディ:「椿姫」より「花から花へ」

アンコールに同じタイトルの歌を二つ(「私が街を行くと」)並べるというのは、なかなか洒落っ気がある。そして、結論から言うと、これがこの日の一番、今の彼女の声にぴったり合っている。逆に言うと、前半はこれまで、後半はこれからのレパートリーかも。もっとも、その日の調子によって、印象はずいぶん変わると思う。また、本人がどれだけのれるかという要素も、この人の場合には大きなウエイトを占めそうだ。

ルチアは十八番のはずなのに、期待したほどではないというのが正直な印象。高音を楽々という感じではないし、ずいぶんゆったりとしたテンポなので口跡の悪さがちょっと気になる。グルベローヴァの全盛期のような完璧さは望むべくもないが、その分、この人には柔らかく広がる声質の魅力があります。高水準の歌であることは間違いないにしても、ちょっと期待が大きすぎた…

本日解禁のワインを思わせる真っ赤なドレスに着替えた後半のほうが、ずっと聴きごたえがあった。とは言っても、このアリアを採り上げるのはよいとしても、それぞれの全曲を歌いきるだけの声の適性はまだ備わっていないと思う。この人は、声の過渡期、レパートリーの過渡期にあるのかも知れない。

アンコールのオマケに繰り返したヴィオレッタのカバレッタが本プログラムよりもよかったのをみると、気分次第でかなり出来が左右される人のようだ。そして、舞台だと全然違うのかも。やはりオペラで聴くべき人なんだろうなあ。

尻上がりの盛り上がりとはいえ、ちょっと欲求不満のところも残るリサイタルになってしまった。彼女の歌を聴けるのは演奏会の正味半分、喉休めのオーケストラピースが交互に入るのは致し方ないとしても、そこで感興が殺がれるというのが辛い。エヴェリーノ・ピド指揮の東京フィル、あれだけオペラをやっていながら、このオーケストラがピットから舞台をインスパイアするのをほとんど聴いたことがないのだ。それは舞台に上がっても同じこと。何も下手なホルンを目立たせるような「セミラーミデ」で始めることもないのになあ。以降の曲も粗い演奏でがっかり。彼らにすればルーチンなんだろうけど。聴かされる客にとってはたまらない。

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