カレッジオペラハウス/「ザネット」・「マノンの肖像」 ~ 覚醒に至らず
2008/3/16

阪急の庄内駅からカレッジオペラハウスに向かうのも久しぶり。去年の「賢い女」に行き損ねたのが心残り(友人によれば、なかなか良かったらしい)。文化住宅の間を抜けたところに忽然と現れるオペラハウスというのは、昔からほとんど変わらない。

どんなものか、やや不安も抱きながら、聴いたことのない二作品だしということで、早くから予約。ピアノ、シンセサイザー伴奏というのが、ちょっと気になったが…

マスカーニ:歌劇「ザネット」
     ザネット:星野隆子
     シルヴィア:太田裕子
 マスネ:歌劇「マノンの肖像」
     騎士デ・グリュー:川下登 
     ティベルジェ:小餅谷哲男
     アウローラ:二星美紀
     モルセール子爵ジャンニ:星野隆子
   指揮:奥村哲也
   ピアノ:西聡美、藤里香世
   シンセサイザー:關口靖祐、西尾麻貴

「うわっ、えらいもん聴いてしもた」というのが、「ザネット」の率直な印象。言っちゃ悪いけど、「なんやねん、これ」という感じ。マスカンニは比較的好きな作曲家で、「カヴァレリア・ルスティカーナ」以外のCDも家にはたくさん転がっている。なのに「ザネット」はない。それで、今回の公演を楽しみにしていたのに…

もともとの作品の出来が悪いのか、演奏が悪いのか、私の見るところでは後者、こんな歌唱を聴くのは久方ぶり。友人と悪態を休憩時間に連発する始末。

これは、ヴェリズモオペラなんだろうか、そうじゃないと私は思うのだけど、二人の歌手は力み返って声を張り上げる。破綻寸前のアクート、同じ調子で他の部分もやるものだから、その場その場のフレーズを精一杯歌うことに汲々としているとしか見えない。メロディの流れはゴツゴツとして音楽にはならない。ひとかたまりのアリアとして捉える構成力は見あたらず。僅か45分の作品なのに延々続くような気がして苦行に近い、イライラが募る。ところで、いったいどんなお話だったんだろう。プログラムには書いてあるけど、耳が拒否反応を起こしたのか、何のことやらさっぱり理解できず。

でも、どうして「カヴァレリーア・ルスティカーナ」の間奏曲から始まるんだろう。「ザネット」のオリジナルがそうなっているのか、演奏者の思いつきで入れたのか。はてな。しかし、どだいピアノでは無理だ。オーケストラの代役もする便利な楽器だけど、鳴らした途端に音は減衰するほかない不完全な楽器。この間奏曲には最も不適切と言っていい楽器だから滑稽だ。ともかく、ピアノ、シンセサイザー各1の簡易伴奏、私たちで何とかしなくっちゃと、余計に歌手に負担がかかったんだろうか。

悪夢のようなマスカンニが終わり、かなり気力が萎えた状態だったが、気を取り直して後半の「マノンの肖像」に臨む。もし、これがハズレだと、しばらく立ち直れないかも…。幸いにして、こちらは随分まとも。

星野隆子さん、「ザネット」に登場したと同じ人物とは、終わるまで気付かず。「マノンの肖像」のジャンニ役では、きれいなメゾソプラノを聴かせていた。「ザネット」にはこの人の限界の高音があるので、あんな聴く側まで肩が凝ってしまう歌い方になったのかな。

男声二人は適度に力が抜けていて、落ち着いて聴けた。デ・グリューの川下登さんの場面が多く、間違いなくオペラの中心、そこが安定すると作品に集中することも出来るというもの。

マスネ、どう考えてもフランス語台本のはずだけど、何故かイタリア語による歌唱だった。オペラ・コミークで初演だから、イタリア語というはずはないだろうし、だいいちフランス語の響きに合わせた音楽であることは歴然だ。上演機会が多いとは思えないけど、イタリア語版が普及しているんだろうか。

「マノンの肖像」は劇場よりもサロン向きとのことで、ニューヨークでの初演はウォルドルフ・アストリア(ホテル)だったそうな。確かに、どう見てもメット向きじゃない(当時は現メットはなかったけど)。オリジナルのオーケストラはどんな編成だったのかな。

マノン・レスコーの続編、デ・グリューはすでに初老、しかし、マノンの追憶は去らず。そこに、後見するジャンニの恋人としてアウローラが現れる。結婚に反対していたデグリューは、アウローラがマノンに瓜二つなのに驚愕、それもそのはず、アウローラはレスコー軍曹の忘れ形見、つまりマノンの姪ということ。それで結局ハッピーエンドなのだが、どうもドラマとしては脆弱かと。「ザネット」の終わりにauroraという普通名詞として登場し、「マノンの肖像」では固有名詞に転ずるダブルビルというつもりなのかな。それは穿ち過ぎか。

「眠りから覚めるオペラ」というキャッチフレーズが踊っているチラシなのに、四月並みの陽気が続く大阪、どうも二作品の真価は見えず、春眠のなか覚醒に至らずというところ。

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