ウィーン・フォルクスオーパー「マルタ」 ~ ローカル・ウィーン
2008/6/7

ずいぶん昔に一度だけウィーン・フォルクスオーパーの来日公演を観た覚えがあるが、とんとご無沙汰。今回は定番「こうもり」はともかく、「ボッカチォ」、「マルタ」という演目が並び、食指が動いた。日程的に二つは無理なので選んだのが「マルタ」。テノールの名歌「夢のように」と、「庭の千草」は知っていても、オペラ全曲など録音でも聴いたことがない。

レディ・ハリエット(マルタ):ジェニファー・オローリン
 ナンシー(ユリア):ダニエラ・シンドラム
 トリスタン・ミクルフォード卿:アイナー・グートムントソン
 ライオネル:メールザード・モンタゼーリ
 プランケット:ラルス・ヴォルト
 リッチモンドの判事:ライムント=マリア・ナティエスタ
   指揮:アンドレアス・シュラー
   ウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団
   ウィーン・フォルクスオーパー合唱団

あれれ、この程度のオーケストラなんだ。二分すれば間違いなく下手の部類、弦はともかく、木管やホルンの奏者の腕前は褒められたものじゃない。つまらない序曲、大雑把な演奏は指揮者の責任も大きい。音量やテンポのコントロールが何とも無神経で、きっと客席がざわついている中で始めるオペラの古き佳き(?)伝統を継承しているんだろう。同じことは開幕のコーラスにも言えて、まあ、肩肘張らずにという雰囲気か。主役の女声二人も幕開きしばらくはパッとしない。

慣れというのは不思議なもので、リッチモンドの市場(なんだか人身売買のよう、奴隷市場を思わせる)のあたりから、耳も馴染んできて、第二幕になると音楽もずいぶん充実してくる。宮中の退屈を紛らすため、遊び心から女中として雇われていき、雇い主と恋に落ちるなんて荒唐無稽な筋立てで登場人物に感情移入のしようもないが、そんなことに目くじらを立てても仕方がない。

二幕終了後に休憩が一回だけ、しかも20分と短いので、天井桟敷のエコノミー席から階段を降り、混雑したホワイエを抜けて屋外の喫煙所を往復すると、それでオシマイ。休日のマチネで時間が押す訳じゃないのに困ったものだ。で、その休憩後の後半では、歌い手たちも力こぶという感じになり、聴き応えがあった。名前を知った人は一人もいないが、それぞれの役に合った声と歌だ。このオペラ、繰り返し聴きたいとも思わないけど、値段との兼ね合いでは相応に楽しめたかな。

恥ずかしい話、このオペラ、ドイツ語で歌われていたので、最初、あれっという感じに。落ち着いて考えたら、作曲家がドイツ人でウィーンで初演されたのだから、当たり前のこと。実演ではテノールのアリアしか聴いたことがなかったし、アントニーノ・シラグーザはイタリア語で歌ったんじゃなかったかな。それにしても、このオペラでのウィーンのドイツ語の優しく柔らかなこと。ワーグナーのドイツ語の響きとは全くの別物。

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