大植英次/大阪フィル定期の英国プロ ~ スランプ脱出か
2008/6/12

音楽監督就任後の二・三年の熱気が戻ってきたような演奏会だった。一年の間に二度も定期演奏会のキャンセルがあったり、プログラムの新鮮味が薄れ、一夜のプログラムの中でも出来不出来が極端だったりと、満員の客席とは裏腹にこのコンビの停滞を感じることの多かった演奏会がしばらく続いていた。しかし、先の大阪国際フェスティバルでの公演を聴いた辛口の友人の評価も良かったし、この英国プロの生気に満ちた演奏を聴くと、一時の低迷から脱出した感がある。最後には何度もガッツポーズが出るなど、これまでと違う姿の音楽監督。ダイエットの成果か、メタボの危機も回避したようだし。

ヴォーン=ウィリアムズ:タリスの主題による幻想曲
 ブリテン:ヴァイオリン協奏曲作品15
 エルガー:エニグマ変奏曲作品36
    ヴァイオリン独奏:ダニエル・ホープ
    指揮:大植英次

どれも見事な演奏だったが、分けても素晴らしかったのはブリテンのヴァイオリン協奏曲。同じ時期に作曲されたシンフォニア・ダ・レクイエムは私には駄作としか思えないのに、こちらは大傑作。もしそれが誤解だとしても、初めて聴く曲をそう思わせただけでも、この日の演奏の充実度が判ろうというもの。

超絶的なカデンツァを聴くまでもなく、ヴァイオリンの名技性の発揮に事欠かないのに、それがオーケストラと遊離しないシンフォニーのような緊密感がある作品だ。オーケストラの各セクションの気合いの入り方も伝わってきます。

広上さんのようなコンチェルトのスペシャリストではないが、この日の大植さんはソリストとの呼吸もぴったり。広上さんの場合は絶妙のサポートでソリストに一段上の力を発揮させる指揮だとすれば、大植さんの場合はソリストとの緊張感をバネにオーケストラとの相乗効果をもたらすという感じかな。

ブリテンを挟むヴォーン=ウィリアムズ、エルガーでも、大阪フィルの実力を遺憾なく発揮。弦楽だけのタリスの主題による幻想曲は、雛壇の上に2・2・2・2・1の別働隊が載っていて、何が始まるのかと思ったが、あまり効果は見られなかった。それよりも、トップ奏者による弦楽四重奏の部分が長く、そちらが印象的。大阪フィルの弦セクションは定評のあるところだが、期待にたがわず。

メインプログラムのエニグマ変奏曲、得意のレパートリーなんだろう。以前、アンコールでも採り上げたのを聴いたことがある。各変奏曲の描き分けが鮮やか、ブリリアントな音響、昔のドイツもの一辺倒だったころの鈍重な響きのかけらもない。それだけ柔軟性、機能性に富んだオーケストラに、大植さんの下で変身したということか。今回は英国もの、今後続々と欧州各国のバラエティとなるシーズン・ラインアップ、この日の出来からすると、ちょっと楽しみになってきた。

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