沼尻竜典/京都市交響楽団のロシア・プロ ~ 真夏の定期を聴いたら秋が来る
2008/8/23

まるで熱帯のようなスコールに何度も見舞われた今年の夏、土曜日は久しぶりに普通の雨が降る日になった。でも、京都まで出かけるのは億劫だ。とは言え、この時期、めぼしいコンサートは少ないし、恒例の京都市交響楽団の8月定期に向かう。お目当てはショスタコーヴィチ。

グラズノフ:サクソフォン協奏曲変ホ長調op.109
 ショスタコーヴィチ:交響曲第8番ハ短調op.65 
   指揮:沼尻竜典
   独奏:須川展也(サクソフォン)

いまいちコンサートの気分になれないのか、暑さも収まる午後6時と、土曜日にしては遅い開演の割には客席の入りはよろしくない。せいぜい7割というところか。3階席は半分以上空いている。

オンドマルトノと言えば原田節、アコーディオンと言えば御喜美江、そしてサクソフォンと来れば須川展也という名前が自動的に浮かぶというのも、クラシックでのマイナー楽器ということなんだろうなあ。

以前にも須川さんの演奏を聴いたことがある。素晴らしい腕前であることには間違いない。グラズノフの作品、弦楽だけをバックにソロサクソフォンが縦横無尽の様相だから、奏者にとっては気持ちいいことこの上ないだろう。長さもほどほどで、退屈している暇はない。

詳しいことはわからないが、この楽器、どんな名人が演奏しても音量のコントロールが難しいのかと思う。ソロならともかく、オーケストラの中では使えない。須川さんの演奏を聴いていても、どうしても音楽的でない、スムースでないフレージングが発生するように思える。それがひとつの売りにもなるジャンルならいざ知らず、という感じ。

ショスタコーヴィチの第8交響曲、何度聴いても掴みどころのない曲だなあという印象。極端な強弱の対比、突然の曲想の変化、全体を通しての統一感の無さ、それがショスタコーヴィチらしいところでもあるし、魅力の一つでもあるのだが。

今回の沼尻さんの演奏、京都市交響楽団へは初客演のようで、きっちりと纏め上げた演奏だったと思う。各パートのバランス調整、ダイナミクスの制御など、しっかりと指揮者の意思が反映されているように見受けた。アンサンブルもよく整っている。響きの厚みという点では不足気味だが、贅肉のない筋肉質の演奏という見方も可能か。

年に何度も聴くオーケストラではないので、詳しくは判らないが、奏者もだいぶ入れ替わりがあるようだ。ずいぶん上手な人がいる。特に印象に残ったのは、イングリッシュホルンを吹いたフロラン・シャレールさん、第8交響曲の長い第1楽章にはオーケストラの強奏のあと、この楽器のソロが延々と続くのだけど、滑らかで叙情的なフレージングで魅了された。

もう一人、第3フルートを吹いた名前はわからないが女性の奏者、ピッコロ持ち替えのときの演奏が素晴らしかった。非音楽的なバランスで吹かれることの多いこの楽器が、オーケストラとの絶妙のコンビネーションを聴かせることは滅多にない。第4楽章の変奏曲の聴かせどころなど、いやあ、感心しました。

終演後には雨もあがって、ホール前の濡れた舗道を北山駅に向かおうとしたら、車椅子の外国人とすれ違う。ああ、あのオーボエ奏者と、後で気が付いた。家で調べてみたら、兵庫芸術文化センター管弦楽団の卒業生のよう。ホールの玄関先で言い損ねた"Bravo!"を、MySpace.com経由、一日遅れで伝える。

I went to Kyoto Concert Hall last night. Listening to Shostakovich's 8th symphony, I was deeply touched your beautiful solo of cor anglais. After the concert I saw you pass by me on the wheelchair. Without saying "Bravo!" to you I left the hall,I'd like to address the very word here.

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