エリシュカ/大阪フィル定期 ~ 驚異!ヤナーチェクの真価を知る
2008/9/18

"圧倒的"のひと言。先月末に松本で聴いたヤナーチェク、あれはいったい何だったんだろう。今夜、ほんとうに心を揺さぶる音楽があった。足許も覚束ない、椅子に腰掛けた老人の棒の先から、血しぶくほどの鮮烈な音楽が…。
 間然するところなし。凄い指揮者だ。オーケストラはもとより、ソリスト、コーラスも入魂の演奏。

ドヴォルザーク:序曲「自然の王国で」作品91
 モーツァルト:交響曲第38番ニ長調K.504「プラハ」
 ヤナーチェク:グラゴール・ミサ
   指揮:ラドミル・エリシュカ
   慶児道代(S)
   ヤナ・シコロヴァー(A)
   ミハル・レホトスキー(T)
   マルチン・グルバル(B)
   室住素子(Og)
   大阪フィルハーモニー合唱団

この人、大阪センチュリー交響楽団に客演したことがあるらしいが聴き逃している。今回の定期演奏会を聴いた今、残念なことをしたと悔やむ。77歳ということなので、もうそんなに聴けないだろう。札幌交響楽団の首席客演指揮者に就任したらしいけど、そうそう札幌まで行けないし、また大阪に来てほしいもの。この演奏を機に待望論が高まりそうだ。

ドヴォルザークもモーツァルトも悪くない。それどころか、「プラハ」第二楽章の美しさはどうだろう。こんなに見事に強弱の表情がついた演奏は聴いたことがない。これは流してしまえる音楽だし、そう聞こえることも少なくない。ところが、エリシュカ翁の演奏は全然違う。一音一音に、これしかないという強弱のニュアンスが付けられる。うーん、ここまでやるのかという感じ。

しかし、休憩後のグラゴール・ミサに至って、もう完全にノックアウト状態。いったいなんだ、この指揮者は。私は音楽の精神性などという衒学的な言い方は好きではないし、それ以前にきちんとスタイルを理解して演奏してもらいたいという考え方だが、このヤナーチェクを聴いていると、楽譜に書かれたものを十二分に表現しつくした先に、崇高な領域が開けているという感じさえする。

コーラスは改組されてずいぶん良くなったが、それでも、馴染みのない言葉で独特のリズムの作品、いったい、どれだけ練習したんだろう。この出来は特筆に値する。オーケストラにしても同じ、連日連夜の一週間の御堂筋巡業からまだ一週間経っていないはず。いよいよ音楽シーズンとは言え、楽器バランスもアンサンブルの精度も極めて高水準。ソリストも含め、とんでもない集中力を感じた。フルオーケストラが咆哮するときばかりか、静逸なパッセージでさえ音楽が熱く燃えている。

こんなふうに、打ちのめされたような感動を覚えるのは久しぶりのこと。夏の間、眠りが浅くなる分、早寝で対処していたが、この夜はさすがに神経が昂ぶって、なかなか寝付けなかった。体が反応するとというのは原始的かな。

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