ROFびわ湖ホール「オテッロ」 ~ まるで湖岸の空模様
2008/11/16

気持ちのいい秋晴れだった土曜日、明けると雨模様。お昼前には雨もあがったけれど、どんよりとした日曜日。ロッシーニ・オペラフェスティバルの演目は、まさか空模様に合わせたわけでもないのに、「マホメット二世」を100点とするなら、「オテッロ」第一幕はせいぜい70点、第二幕はだいぶ盛り返して80点を超えたかないう具合。なかなか、連日の大当たりとはいかないようで…

第一幕が終わったところからヴェルディの同名作の幕が開くという感じ、第二幕で破局に進む筋書は同じでも、取り上げる場面はかなり違う。イャーゴは狂言回しに徹し、声楽的には大きな役ではなく、逆にロドリーゴは、オテッロとどちらがプリモ・ウォーモかわからないぐらいの重みがある。昔、国内上演があったときに見逃したので、これがロッシーニ「オテッロ」の初見参、舞台が物珍しい。

オテッロ:グレゴリー・クンデ(テノール)
 デズデーモナ:イアノ・タマール(ソプラノ)
 ロドリーゴ:ブルース・スレッジ(テノール)
 ヤーゴ:フェルディナント・フォン・ボトマー(テノール)
 エミーリア:マリア・ゴルツェフスカヤ(メゾ・ソプラノ)
 指揮:グスタフ・クーン
 管弦楽:ボルツァーノ・トレント・ハイドン・オーケストラ
 合唱:プラハ室内合唱団
 演出:ジャンカルロ・デル・モナコ
 装置:カルロ・チェントラヴィーニャ
 衣装:マリア・フィリッピ
 照明:ヴォルフガング・フォン・ツォウベク

完璧な出来の歌手が誰もいないという印象だった。と言っても、酷いということではなく、立派な上演とみることだって可能か。でも、もうちょっと、あそこがこうなればというような不満がたらたら。総じて言えることは、ロッシーニのアジリタを軽々と歌える人が誰もいないということに尽きる。

オテッロ役のクンデ、強靱な声を響かせる一方で、スカスカ気味のフレーズや、声の荒れを感じるところが顔を覗かせて、安定感が足りない。熱演、熱唱ではあっても、力だけでは、声で圧倒されるという印象には繋がらない。

恋敵のロドリーゴ、現地ペーザロではファン・ディエゴ・フローレスがこの役を歌ったらしいが、ヴェルディの「オテッロ」しか観たことのない人間にとっては「何で?」という感じ。でも、聴いてびっくり、第二幕冒頭のアリア、彼が歌うとさぞやと思う高音とアジリタ、びわ湖で歌っているのは別人だけど、その様が想像できる。この曲を完璧に歌ったら、他のキャストを完全に喰ってしまうほどのインパクトだろう。スレッジ、頑張ってはいるんだけど、技巧不足。軽々と歌ってこそロッシーニの魅力炸裂なのに、ちょっと厳しそう。それと、この人、五線譜上の音符の動きに伴い、体も首も大きく上下する癖があり、それに気づいてしまうと、客席で思わずクスクスということに。いかん、いかん。

デズデモナのタマール、後半の幕は安定してきたものの、第一幕では声質が安定しないのと、聴いていて一杯いっぱいの印象ばかりで、あまり楽しめない。相方のエミーリア役のゴルツェフスカヤ、ロシア出身の人のよう。アリアも与えられていない脇役だけど、歌に演技に光るものがある。

そして、問題の多いのはグスタフ・クーンの指揮、前日のゼッダとは格が違う。オーケストラの音は前日よりいいぐらいなのに、この指揮者が邪魔をしている。ロッシーニの音楽の自然な息づかいに逆らうように、無用に煽ったり、変にテンポを緩めたりで、何を考えているのか不明。第二幕になると、落ち着いてきたが、第一幕の指揮ぶりは、あまり褒められたものじゃない。

舞台、演出、前日とは打って変わりシンプルなもの。全曲を通して一つのセット。左右奥と三面の壁にそれぞれ三つの扉、この扉が開いて人物が出入りしたり、扉の枠組ごと外して舞台上を移動させ、室内を模したりする仕組。さらに、壁の上方には引き出しのような迫り出し舞台があり、コーラスは左右に分かれ、ドラマのキーとなるソリストが中央に現れたりする。しかもエレベーターのように上下するので、裏側の機構は凝っていそう。こうした装置が音もなくスムースに移動するのには感心したが、さりとて、何を表象しようとしているのかとなると…。動きはあっても、3時間この装置に向き合っているのは、正直なところいささか飽きがくる。

前日の「マホメット二世」でもヴェルディへの連続線を感じたが、同名作がある「オテッロ」ではなおさら。第二幕の初めのオテッロとロドリーゴの激しいデュエットは、ヴェルディのオテッロとイャーゴの同じようなシチュエーションのデュエットを思い起こさせる。そっくりな音型まであるのは、ヴェルディは本歌取りのつもりで引用したのだろうか。今回のロッシーニの二作を聴いてみると、歴史は繋がっているということを如実に感じる。突然変異的には傑作は現れない。

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