ドーリック弦楽四重奏団@いずみホール ~ ご褒美、目一杯
2008/11/19

音楽シーズンたけなわ、一週間のうちにオペラを三本観るというピークに、突然舞い込んだ御招待の話。ちょうど空いた日だったので、これも浮世の義理、コンクール優勝者の記念コンサートが閑古鳥では主催者も演奏者もがっかりだろうし…。ペアチケット引当2名のところを、もう一人声をかけて都合3名、達成率150%だから堂々と胸を張れる成績。

会場でプログラムを貰って知ったのだが、これは記念コンサートとは言っても、一夜限りのイベントではないこと。春に行われた第6回大阪国際室内楽コンクール第1部門(弦楽四重奏)での優勝クァルテットが再来日して、グランプリ・コンサート'08と称する全国ツアーを行うというもの。

先月28日の東京に始まり、札幌、糸魚川、長野県波田、高岡、庄原、別府、熊本、津、名古屋と日本列島を縦断、そして最後が、コンクール優勝を果たした地、大阪のいずみホールという具合。

全11公演、コンクール主催者で丸抱えというのも太っ腹、協力JALという名前もあるから渡航費をもっているのだろう。しかし、そういう金銭面よりも、若いプレイヤー達にとって、これだけの演奏機会を与えられるということが、何よりのご褒美かと。例えはヘンだが、プロ野球選手だって、ファンの目が注がれる公式戦に出場しないと絶対に上手くならない訳だし。

ドーリック弦楽四重奏団(イギリス)
  アレックス・レディントン(第1ヴァイオリン)
  ジョナサン・ストーン(第2ヴァイオリン)
  サイモン・タンドリー(ヴィオラ)
  ジョン・マイヤーズコフ(チェロ)
 ハイドン:弦楽四重奏曲第44番変ロ長調op.50-1
 ウォルトン:弦楽四重奏曲イ短調
 ブラームス:弦楽四重奏曲第1番ハ短調op.51-1

主催者が八方手を尽くした成果なんだろう、会場は7割ほどは埋まっている。これなら問題ない。あんまり聴衆が少ないと聴くほうも妙に緊張して居心地が悪いものだし。

コンクール優勝と言っても大したことがないのは、チャイコフスキー・コンクールなどが実証しているが、このカルテット、予想外にいい。なかでもウォルトンが圧巻、お国ものということで力が入るのは当然としても、ハイドンを聴いた後だから、余計に素晴らしさが引き立つ。ハイドンでは良くも悪くもファーストが中心で、3つの楽器は引き立て役の感じだが、ウォルトンになると四人の立場はほぼ対等になる。

ハイドンと比べると曲想は無国籍風、いろいろなことをやっているなあという印象、第一楽章には楽器間の活発なキャッチボールがあるかと思うと、一転カノンになったり、終楽章には特徴的なシンコペーションのリズム。セカンド・ヴァイオリンもヴィオラもチェロも大活躍で視覚的にも楽しめる。各楽器の上手さと、緊密な連携、全曲通しての溌剌とした弾きぶりは若いグループらしくていい。上着なしで茶色のドレスシャツ姿の動きやすいスタイルもユニーク、メタボ腹だとこうはいかない。

こんな貰いものでもない限り、自分から足を運ぶことは絶対にない演奏会だが、このウォルトンは掘り出しもの。11回の公演のうち、これをプログラムに入れているのは大分と大阪だけ。最終日に満を持して組み込んだということかな。

ウォルトンを挟むハイドンとブラームス、ウォルトンの印象が強すぎて、やや霞んでしまうところもある。ところで、ハイドンのフィナーレにはすっかり騙されてしまった。会場の聴衆も、終わったと思って一斉に拍手、ところが完全終止のあとにコーダがあるのだから、ハイドンおじさんは人が悪い。

ブラームス、何を聴いても、本当にメロディの才がないなあ。この曲も初めてではないが、つまらない主題できっちりソナタを構築してしまう技と言うか、なんとも不思議な作曲家だ。オペラばかり聴いている反動でもないが、実はブラームスは結構好きな作曲家で、一番のお気に入りはハイドン・ヴァリエーションというのだから、私もヘンな人間。でも、あれはブラームスの最高傑作だと思っている。

そのブラームスでプログラムが終わったら、アンコールが、「浜千鳥」、「宵待草」とくるから、唖然とするギャップ。まさに対極。まあ大阪だし、何でもありかな。「ダニー・ボーイ」が定番アンコールのオーケストラもあるらしいし。ちょっと昔、ベンチャーズなんかが歌謡曲をフィーチャーして稼ぎまくっていたのを彷彿とさせる。でも、こちら、編曲の技がもう少しあればと思わせるほどの格調の高さ。弦楽四重奏は不思議に何でもフィットする。大阪ドームでの某流通大手トップのお別れ会に参列したとき、弦楽四重奏で故人が好きだったという「白いブランコ」を奏でていたのを、ふと思い出した。

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