鬼才激突!サイ/コパチンスカヤ/協奏曲競演 ~ fanatic*2
2008/12/2

誇大広告気味のチラシが多いなか、これは文字どおり、と言うか、控え目なぐらい。
 やはり、度肝を抜くコンサートだった。それが予想できたのは、4年前、大阪フィルの定期演奏会に客演したファジル・サイを聴いているから。あのときは、大植英次/大阪フィルを完全に喰ってしまったのだから。

さて、どんな演奏になるか。実は、この日の午後、ひょんなことからゲネプロを聴く機会があり、普段着の"鬼才"との遭遇かと期待したのだが、プロコフィエフの時間で、ちょっと残念。それで、余計にワクワクの本番。

プロコフィエフ:古典交響曲  
 モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番
 チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
  ピアノ:ファジル・サイ
  ヴァイオリン:パトリツィア・コパチンスカヤ
  指揮:岩村力
  大阪センチュリー交響楽団

ライトサイドのバルコニー、たんに安い席というだけで、そこを指定した訳じゃないけど、舞台横でピアノの前のサイと正対する位置。いいのか悪いのか、演奏途中で「クスクス」と音が出てしまう。でも、隣のおじさんも同じなので、私だけがヘンな客というわけではない。

前と同じ百面相、ばかりか、この位置だとサイの歌がダイレクトに聞こえるという余得(?)。でも、それはピアノパートでも、オーケストラの旋律でもない感じで、楽譜に書かれていないものを補っている風でもある。これがコンポーザー・サイということなのか。

当然のことながら、二つのカデンツァはモーツァルトのものではない。いきなり妙な音を鳴らすなあと思った次の瞬間にはサイ・ワールドの出現、それがモーツァルトに変異してコンチェルトに戻るという摩訶不思議。これぞカデンツァというものなのか。ぶっ飛びピアノ、奇矯な演奏家かと言うと、とんでない。ピアノの一音一音が、そうでしかないというように次の音に繋がる説得力。正統派(?)ピアノ教師から見たら、絶対におかしな演奏スタイルのはずなのに。

前に聴いたときと同じ、休符のときは左手が自然に動く。オーケストラを凝視というか、件の百面相。早い話が、二つの顔、三本の手がオーケストラを指揮しているという様相。大植/大阪フィルのときは彼らのプライドが邪魔をしたのか、ソリストとの間に溝を感じたものだが、岩村力指揮の大阪センチュリー交響楽団は取り澄ましたところもなくて、サイとの共演を楽しんでいる風でもある。なかなか、えらい。

そして、のけぞりアンコール、「トルコ行進曲」。主題の提示がモーツァルトで、あっと言う間に Alla Turca Jazz、猛烈なテンポ、なんとも凄まじい演奏。協奏曲のときには拍手だけだったのに、7分の入り500人ほどの客席からワッと歓声が飛ぶ。ずいぶん久しぶりに、私もバルコニーから"Bravo!"

こんな破天荒なソリストの後で弾くコパチンスカヤ、休憩を挟んでいるとは言え、さぞやりにくかろうと思ったら、なんのなんの。こちらも、ぶっ飛びねえちゃん。ひょっとして兄妹ではないかと思えるほどにfanatic*2!彼女も自分が休みのときはブツブツ歌っていて、顔はオーケストラのほうを向いているのも瓜二つ。

コパチンスカヤ、裸足で登場、いつもそうらしいが、初めて見る私はびっくり。カティア・リッチャレッリのように、アンコールで興が乗って靴を脱いでという人は見たことがあるけど、のっけからというのは…

でも、それだけのことはある気合いの入り方。ときに蹈鞴を踏むような勢いでのステップ。能舞台のように床下に壺でも並べておけば見事な音響になるのでは、なんて。でも、裸足じゃ冷たかろうし、キリッと締まった五枚小鉤の足袋を履けばもっとサマになる。いずみホールの関係者に、「ピンクの足袋なんぞを特注して、彼女にクリスマスプレゼントで贈ったら、きっと喜ばれるのでは」なんて、ヘンな提案をしてしまう。

自由さと言うか、別けても激しさではサイに勝るとも劣らない。モーツァルトとチャイコフスキーの違いもあるだろう。ソロの入りのずれ、思うがままのルバート、激しいアッチェランド、何でもありの独奏パートだが、不思議と嫌悪感ではなく、爽快感が先に来るのはどういうことだろう。これにオーケストラもしっかり付いて行くのだから、サイと並ぶほどのオーラの発散ということ。

アンコールもサイとは違って、ずいぶん人を喰ったもの。高音域の断片と彼女のスキャットが組み合わさった曲の名前は知らないが、奇天烈で面白いピース。いやはや。

インフルエンザ予防接種の後だというのに、コンサート直前までパーティ会場でしっかり飲んでいたのに、眠気が出る暇もなし。普段、アルコールが入っていなくても、コンサートの二曲目、休憩前のコンチェルトでは居眠りが出るのに…

残念だったのは、アンコールで二人のデュエットが聴けなかったこと。間違いなく、とんでもない演奏になりそうなのに。聴いてみたかった。そんなアイディアもあったらしいが、後半はピアノを片付けてしまうので断念したのだとか。また、サイがピアノの中に手を突っ込む内部奏法のアンコールピースが聴けるかとも思ったが、大事なスタインウェイの弦が錆びてしまってはとの心配もあったとか。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system