クロスオーバーで新年 ~ 山下洋輔/佐渡裕/PAC定期演奏会
2009/1/10

ゑべっさんの日、西宮は道が混んでいるかと思って早めに出発。一人なら電車の乗り換えで行くところだが、カミサンも一緒、車のほうが速いし、トータルコストも大差ない。奈良から向かうと水走から武庫川まで、阪神高速の630円で行ける最長距離に近いので割安。自宅から1時間ほど。早く着いたので、西宮北口あたりをウロウロしていたら、ペデストリアンデッキの途中のショップで、ベルリンフィルグッズがカミサンの目にとまり、おもしろバッグのお買い物と相成る。とほほ。

まさにPAC便乗の商売だけど、ホールに向かう人の大半はここの前を歩くからけっこう繁盛している。眺めが変わったのは、阪急今津線の向こう側には西宮ガーデンズが最近オープンしていること。阪急百貨店とイズミヤ、シネマコンプレックスも入った複合商業施設。空中庭園風の外観は、どこかで見た感じ。なあんだ、なんばパークスじゃないか。球場跡地というところまで同じだし。

年末年始を挟んで1か月のブランク、今年の聴き初めは「正月気分を吹き飛ばす」には好適というプログラム。

山下洋輔/狭間美帆:ピアノ協奏曲第3番「エクスプローラー」
 ショスタコーヴィチ:交響曲第5番ニ短調
   ピアノ:山下洋輔
   指揮:佐渡裕
   管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

カミサンが行く気になったのは山下洋輔のピアノ協奏曲に惹かれたから。彼のジャズ演奏は何度か聴いているらしい。私は初めて。この人、66歳らしいが、元気なものである。

思ったよりも曲が長いのに驚く。カデンツァというか、即興演奏の部分がいくつもあり、その日によって楽想も長さも違うのだろう。どこでオーケストラに戻るか、佐渡さんもピアノソロのときには山下さんのほうを凝視、アイコンタクトでやるんだろうか。ま、こういうのが本来か、即興の達人だったベートーヴェンなどのスタイルなのかも。もちろん、イディオムはずいぶん違うけれど。

作曲者、演奏者、山下洋輔と言うが、オーケストレーションを担当したのは狭間美帆さんというまだ23歳の美人。山下さんがプログラムで述べているように、きちんと書かれたピアノ譜から起こしたものではなく、楽譜とジャズグループの音源に加えて、言葉での説明から音作りしたと言うから、編曲という作業以上のものかと。なかなかの才能。「宇宙に飛び出して木管猫生物、弦楽器地底生物、金管素粒子生物に出会う。やがて時間を遡行してビッグバンに遭遇して皆死ぬ」というのが第3楽章のイメージらしい。後半プログラムと同じぐらい拡大されたオーケストラで、華麗多彩な音を出してくれる。ピアノはもとより、オーケストラのほうも何をやらかすんだろうという興味もあって、40分を超える大曲なのに飽きずに鑑賞。

プレトークで「まさか三日連続で演奏することがあるとは、思ってもみなかったでしょう」と、佐渡さんから山下さんにツッコミ。1年前の初演に続く関西初お目見え。この日も完売。

後半は、大阪のおっちゃん、おばちゃん、じいさん、ばあさんなら、誰でも知っているショスタコーヴィチの第5交響曲。ほんと、ベートーヴェンの第9なんて聴いたことのない人だってこれは知っている。いちど"探偵ナイトスクープ"あたりでフィールド調査してみたら面白いと思うんだけどなあ。20世紀に、クラシックの同時代の音楽が日本でこれほど人口に膾炙した例はないのでは。

土曜の夜、七時半、大阪ガス提供のローカル30分ドラマ、そのオープニングテーマが第4楽章の冒頭。2000回以上も続いた人気番組なので、大阪人の脳裏に深く刷り込まれていると言っていいほど。まだ、テレビのドラマをライブと言うか、ほんとに"生"でやっていた時代に始まったんだから。

あの番組に使われていた音源は何か知らないが、私の記憶の中ではずいぶんゆったりとしたテンポだったと。もちろんあれは「証言」前の演奏だから、"健全な"社会主義リアリズム路線に沿った演奏とも言える。この日の佐渡/PACの演奏は、その対極のよう。凶暴に荒れ狂うような第4楽章だし、人生、世の中、肯定的とは思えない響き方である。先立つ楽章のテンポの揺らし方、皮肉な表情づけにしても、これはポスト「証言」の演奏の典型かも。もっとも、あれは偽書ということでほぼ決着したようだけど、ショスタコーヴィチ解釈の多様さをもたらした功績はあると言える。

このオーケストラ、メンバーは3年有期だから入れ替えもあって熟成する暇がないのだけど、こういうプログラムだとあまり欠点には感じない。細部の彫琢が不足するのはいつも感じることで、一点一画を大事にする演奏ではなく、勢いに任せて突き進むところが若いオーケストラらしい。音楽監督のキャラクターも影響しているのかも。山下作品のあとのアンコールでは、ノリノリのスイング状態で、途中からはスタンディング演奏も披露。チェロ奏者まで楽器を抱えて歩き回りながらというのは初めて見た。

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