大植英次/大阪フィル定期のマーラー ~ 目指せ、橋下!
2009/2/19

唖然とする演奏。終わってブーイングの嵐かと思ったら、意外、そうでもなくて、結構な盛り上がり。私はくたびれてしまって、拍手する気も起きないのに。こりゃあ、ボロ負けしても気勢の上がる甲子園ライトスタンドか!

並んで聴いた友人曰わく、「こりゃルーチンやないわ、定期演奏会の演奏とちゃうか」と半ばヤケクソ。
「ほんま、そういうことでっしゃろな。しかし、どっと疲れましたなあ」

モーツァルト:ピアノ協奏曲第9番変ホ長調「ジュノム」K.271
 マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調
   指揮:大植英次
   独奏:ジャン=フレデリック・ヌーブルジェ

休日の夕方、阿波座先頭の阪神高速神戸線の渋滞を思わせる。時速20kmは時速10kmの倍のスピード、でも、それで速く感じるかと言ったら、どっちも、"遅っそお!"、"もう、たまらん"、"ええ加減にせんかい"。

家に戻って、棚からマーラーの第5交響曲のCDを引っ張り出し、足し算してみた。70分、もちろん1枚収録(ジュゼッペ・シノーポリ指揮のフィルハーモニア管弦楽団)。ところが、この日の演奏は90分を優に超えた。なんとまあ。

でも、考えようによっては、最近は生彩のなかった音楽監督のプログラムが、賛否両論、破天荒な演奏だったことは喜ばしいとも言える。確信犯ならそれも結構、橋下知事並みに暴れてもらったら、これは何かが期待できるかも知れない。混沌、混迷の中から新たな地平が切り開かれないとも限らない。気になるのは、病気か無理なダイエットか、げっそり痩せて皺の目立つ顔。しかし、動きはひと頃の重さが取れて軽やかになっているから、心配ないのかも知れないが。

第3楽章が終わって、既に1時間経過。三階バルコニーから見下ろす客席はゲンナリ感が漂っている。最初の二つの楽章は超スローテンポながら、それなりの緊張感があったのに、直前の楽章が間延びしてしまったのだから宜なるかな。ともかく、続くアダージェット楽章を、"速い"と感じたのだから、先立つ楽章の進み方が知れようというもの。遅いばかりか、マーラー特有のテンポの変化があまりない。アマチュアオーケストラでマーラーの大曲を採り上げたときに、ありがちなパターンである。とは言え、そこはプロのオーケストラ、音楽全体が破綻するところまで行かないが、細部には粗が目立ってくる。弦楽器は何とか対応できても、管楽器があちこちで綻びるうえに、わずかなテンポの変化のつけ方のタイミングが微妙にずれる。そりゃあ、仕方ない。体感的には、アンダンテ以上のスピードになることはなかったから、そんな中で百人近い人間の呼吸をそろえるのは並大抵じゃない。

驚くべき遅さで思い出したのは、いま建て替え中のフェスティバルホールで昔聴いたチェリビダッケ指揮の「展覧会の絵」。ギョッとする遅さでは同じだけど、あちらは1時間足らずの曲だし、ミュンヘン・フィルのリハーサルも並じゃないはずで、凄まじいコンセントレーションに圧倒された記憶がある。一方、大阪フィルではこのテンポでの90分の演奏は試練か。でも、こういう厳しい演奏体験は、きっとオーケストラの実力を高めるはず。

美点もあった。足取りの重い第1楽章から第2楽章に続く歩みのなかで、音量、速度の微妙な変化の綾があり、じわあっと第2楽章後半のクライマックスに持って行く流れは、なかなかの腕前かと。第3楽章は不発としても、アダージェットでの浄化を経て、終楽章では気分が明るく転換、そして最後の最後に、やっと歩くスピードよりも速くなって終結。それまで90分間のテンポがテンポだけに、やけに印象的。まるでオネゲルの第2交響曲フィナーレで鳴る一本のトランペットのような印象。何だか標題音楽風のアプローチとも言えなくはない。それにしても、長かった。

あまりに型破りなマーラーのおかげで、前半のモーツァルトの印象がすっかり飛んでしまった。ジャン=フレデリック・ヌーブルジェという若いピアニストの演奏は、ちっとも音楽に切り込んで行かない物足りなさを感じる。昨年末にファジル・サイのモーツァルトを聴いているので、余計にそう思う。綺麗な音を出しているんだけど、よく聴くとリズムが重い。アンコールでのドビュッシーのほうが、ずつと良い演奏。

友人と話していたら、先日の2009-10シーズンのチケット発売、見事に二人とも音楽監督の回を外して買っていた。しかし、この日のような演奏だったら、行ってもいいかなという気がしてきた。たとえ問題含みであっても、毒にも薬にもならない演奏よりはずっとマシだから。

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