錦織健プロデュース「愛の妙薬」 ~ 久しぶりに旅回り一座
2009/3/20
上野の桜にはあと一週間は待たないといけないけど、もはや春たけなわという陽気。西宮で見逃した公演を東京で観る。チラシには二つのヴァージョンがあるようで、このシリーズ定番のマンガ版のものと、森麻季さんの写真版。錦織健プロデュースオペラとは言うが、今回はアディーナが看板であることが知れる。聴く側のこちらもそのつもり。
アディーナ:森麻季
ネモリーノ:錦織健
ドゥルカマーラ:池田直樹
ベルコーレ:大島幾雄
ジャンネッタ:田上知穂
演出:十川稔
指揮:現田茂夫
管弦楽:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
合唱:ラガッツィ
チェンバロ:服部容子
オペラは出産後初めてではないかと思う森さん、アディーナの役柄にぴったり。そして、この人独特のふわあっと浮遊する魅力的な高音は健在。彼女を充てたことで公演の成功は約束されたようなものか。
それにしても、ドニゼッティのこの作品はよく出来ている。他愛ないお話に付けられた音楽の多彩さと舞台の面白さ。全国巡業の終盤で練れてきているということもあるだろうが、ちっとも退屈しないので時間がすぐに経つ。
座長の錦織健さん、キャラクター的にはネモリーノには合っていそうなのだが、いかんせん高音の壁があるのが気の毒。「人知れぬ涙」も最後は下げて歌っていたように思う。熱演なのだが、ことに第一幕ではどうも歌が一本調子で変化に乏しい。池田直樹さん、大島幾雄さんの脇役陣はそつなくこなしている反面、声楽的な存在感はごく普通のレベル。とまあ、目くじら立てるよりも、これは森さんを観る聴く公演だと思っているから、周りがそれなりにやってくれると充分楽しめるということ。
面白いのは、新国立劇場とも海外歌劇場の来日公演とも客層がちょっと違うということ。一気に春ということで衣替えが出遅れているせいだけでもなさそうな地味な女性の装い。同じオペラ公演なのにずいぶんと違う。チャラチャラした層は来ていないということなのかな。
今でこそ西宮の夏のオペラは10公演以上のぶち抜きで満席状態だけど、国内のプロダクションで多回数公演の先鞭をつけたのは2002年に奈良からスタートした錦織オペラ。彼が主役でやれるものには限界があるわけで、自分が引き立て役に回る共演者を選ぶということを評価できる。プロデュースするということはそういうことでもある。千三つのヒットを千載一遇のチャンスとばかり全国巡業で稼ぐ人と、進む道はずいぶん違うなあと、妙な連想。