カサロヴァ「カルメン」を歌う ~ 看板よりも脇役
2009/3/21

40年前に実現していたはずのこと、そのとき、近鉄鶴橋駅と野田阪神駅は繋がったのだから。それが地下鉄千日前線。モンロー主義、大阪市の愚かさを嘆きたくもなるが、ともあれ阪神西大阪線の延伸(なんば線と改称)に伴う近鉄と阪神の直通運転が3月20日から始まった。普段利用する近鉄奈良線の行先表示に「三宮」の文字を見るとテツは大興奮。阪神サイドも同じようで、「奈良」の文字が表示されたいつもの電車にカメラを向けるてっちゃんの姿が各駅に。

三宮行き快速急行の最後尾に乗車、難波の次の桜川駅で近鉄から阪神に乗務員が替わる。馴染みのない車両だからか車掌室でゴソゴソしている。窓ガラスにへばりついていた私、車掌さんに向かって指で×マーク、そして耳を指さす。すると、阪神クン、おもむろにドアを開けて、「えっ、放送入ってませんか」と、大あわて。開いたダイヤグラムも新しくて、いかにも相互乗入れ開始2日目。

阪神は今津で下車、阪急に乗り継いで二駅の西宮北口。定期券がある大阪駅から阪急で来れば260円のところ、550円出して新線に乗る私もてっちゃん。

カルメン:ヴェッセリーナ・カサロヴァ
 ドン・ホセ:ロベルト・サッカ
 エスカミーリョ:イルデブランド・ダルカンジェロ
 ミカエラ:ヴェロニカ・カンジェミ
 スニガ:田島達也
 モラレス:森口賢二
 ダンカイロ:豊島雄一
 レメンダード:小山陽二郎
 フラスキータ:佐藤亜希子
 メルセデス:鳥木弥生
   指揮:デイヴィッド・サイラス
   演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
   合唱:藤原歌劇団合唱部
   児童合唱:宝塚少年少女合唱団

ロベルト・サッカ、20年以上前のカレーラス以来の目覚ましいホセだった。終幕の素晴らしさは特筆ものだ。私、とても好きなテノールで、まあこの公演も彼とダルカンジェロの名前があったからチケットを購入したようなもので。

いつも全力投球で情熱的な歌唱、少し苦しいような感じもする高音域一歩手前の発声、しかしそこを通り抜けたときの輝かしい高音。薄雲の上に抜けるような青空があるという風情で、それがかえって魅力的に聞こえるのが不思議。「花の歌」は期待ほどではなかったものの、幕切れの二人のデュエットはまさに白熱という趣き。舞台中央の段、宝塚のこどもたちが、終幕のコーラスのあと、二人を食い入るように見ていたのが印象的。瞠目という表現がぴったり。彼ら、きっとゲネプロなしで臨んだろうと思うので、舞台で初めてカサロヴァとサッカの本番モードの声を聴いたはずだから。

ダルカンジェロは期待したのだが、キーロールとは言えないこの役では、ちょっと判断できないかな。彼は音色が単一に過ぎて、エスカミーリョを聴く限り平板な感じがする。立派なバスバリトンの声だし、舞台姿もいいだけに、もっと色合いがつけばと思う。

カサロヴァは、以前のリサイタルで「ハバネラ」を歌ったとき、あまりに低音域の声質が違うので驚いた記憶があり、あの傾向が強まっているなら聴きづらいものになるとの予想。確かに、最初は二つの音源を組み合わせた如く、野太い低音だけが遊離してしまう状態で、聴いていて落ち着かなくなる歌だった。ということで、予想どおりなのだが、幕が進むにつれ違和感は減る。喉が暖まると声域によるアンバランスが解消に向かうのかも知れない。声の運動性についても同様のことがあるかも。何しろ「ハバネラ」に限らずカサロヴァの歌う場面では極端にテンポを落とす。このデイヴィッド・サイラスという指揮者、以前のリサイタルで伴奏を務めたピアニストだけど、歌手に奉仕するというスタイルで、手堅いもののあまり自律性はない。

ミカエラ役のヴェロニカ・カンジェミ、主役が霞まない人選かと想像する。リリカルな歌ではあるけれど、高音の輝きと透明感には不足する。もっともそれがあったら、得な役柄だけにカルメンもホセも喰われてしまうから。

主役ではなく脇役の顔ぶれで行くか行かないかを決める、というのは何だか邪道のようでもあるが、終わりよければ全てよし。ずいぶん久しぶりに熱い第四幕が聴けたし。

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