大阪フィルいずみホール特別演奏会 ~ Michy, the entertainer
2009/7/3

メンデルスゾーン生誕200年記念公演、面白いプログラムだ。ヴァイオリン協奏曲は定番としても、前後に「真夏の夜の夢」の音楽を置くというのは、井上さん、何かたくらんでいるなという予感。そうそう、タイトルからして、耳慣れた「真夏の夜の夢」じゃなく、「夏至の夜の夢」になっている。これは坪内逍遙、世紀の誤訳ということらしい(語感だけなら誤訳に軍配)。真夏というと甲子園で高校生が真っ昼間に野球をやっている頃というのが我々の季節感だから、原意の夏至とは1か月以上のずれがある。それで、夏至から10日ほど経ってはいるが、この時期にこのプログラムということか。

メンデルスゾーン:序曲「夏至の夜の夢」作品21
 メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64
 メンデルスゾーン:劇音楽「夏至の夜の夢」作品61
   指揮:井上道義
   ヴァイオリン:シン・ヒョンス
   ソプラノ:天羽明惠、松田奈緒美
   語り:朝岡聡
   女声合唱:大阪フィルハーモニー合唱団

休憩時間、舞台でなにやらゴソゴソという動き。ふつうは一基の譜面台の電気スタンドをダブルにしている。ははあん、舞台を暗くするつもりなんだなと想像。当たり。曲調と言うか、劇のシチュエーションに合わせて照明を調節、あるときにはオーケストラピットのように、あるときには晴れやかな祝宴のように。

劇音楽の演奏が始まったら、それはコンサートの最初の序曲の繰り返し。17歳で書いた序曲を全く手を入れずに30代の作品に転用したらしいから、同じもののはず。と、数小節演奏したところで、突然オーケストラを止め、くるっと振り返り、「ご心配なく、同じ曲をやりません」と、早くも井上ワールド全開。このあとも、出演者との掛け合いはもちろん、指揮台(台はなくフラットポジション、あの身長ならOK)でステップを踏んだり、ちょこちょこ離れたり(そのときは長原さんが弓を振っていた)。

語りの朝岡さんが登場して話し始めると、ぺちゃくちゃとやかましい二人連れの女性客が遅れて客席に、「もしもし、そこのお客さん…」というのが天羽・松田のソリストでという趣向。二人を舞台に上げるのに、コンサートマスターの椅子を取り上げステップに、仕方なく長原さんは中腰で演奏という姿に客席から笑いが漏れる。

こう書くと、コンサートでドタバタをやっているのかという感じになるが、演奏自体はとてもしっかりしたもの。劇の内容を紹介する語りをはさみ、あるときには重ねてオーケストラが鳴る。演出が入ることで、それが奏者の邪魔にならず集中力やノリに繋がっていたのは成功。今回の演出は、あざとさを感じるよりは、劇の雰囲気を伝える効果のほうが大きかったと評価できる。

女性コーラスは妖精たちの役回りなので、それぞれが違った衣装、このために準備した訳じゃないだろうから、それらしい私服の一張羅でという指示だったのかな。舞台の出入りのタイミングや歩き方、各人の振り付けもしているから、いい感じである。

昨年、ブリテンのオペラ作品を観たときには、ずいぶん辛気くさいと感じたお話が、もちろん作曲者も年代も違うが、こういう形で演奏されると文句なしに楽しめる。劇音楽だけをノベ単で並べて演奏するより、ずっといい。

今回、歌唱が井上さんの手になる日本語訳詞ということで、敬遠した向きもあるようだが、イタリア語を日本語に替えるわけじゃないので全く問題なし。原意をどれだけ伝えているのかは判らないが、不自然さがなくて好感が持てた。

さて、真ん中に挟まれたコンチェルト、これが予想外に良かった。若いコンクール優勝者の演奏ということで、コンサートの彩りぐらいに思っていたら、この人、歌ごころがある。楽章全体を見通した息の長い旋律線を保って弾ける奏者はそんなに多くない。もちろんロン・ティボーの覇者だけにテクニックの不安はないし、ありがちな部分部分で技術をひけらかし音楽を殺し聴く者を鼻白ませるようなところが全くない。先立つ序曲ではアンサンブルがあまりパッとしなかった大阪フィルも、この伴奏では見違えるようなサポートだった。

それにしても、写真で見ても実物でも、シン・ヒョンスという人、同じヴァイオリニスト、高嶋ちさ子さんとそっくり。姉妹と言っても間違いなく通る。国籍こそ違え、一衣帯水とはこのことかと、妙なところにも感心。今後が楽しみなヴァイオリニスト。

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