リントゥ/兵庫芸術文化センター管弦楽団 ~ Don't be be jealous
2009/7/18

近畿地方の梅雨明けが遅れている割には大して雨も降らず、この日も蒸し暑い。京都のお祭りの頃はいつもそんな感じ、一週遅れの大阪のお祭りには梅雨明け後のくそ暑さが来る。そして、北欧音楽をこの時期に持ってくる季節感の妙!?「ウィーン・フィルのソロ・ハーピスト、ハープの貴公子=メストレ登場!」なんてキャッチコピーにつられて、どんなもんじゃと西宮へ。

チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」
 グリエール:ハープ協奏曲変ホ長調
 シベリウス:交響曲第5番変ホ長調
 指揮:ハンヌ・リントゥ
 ハープ:グザヴィエ・ドゥ・メストレ
 管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

どちらかと言うと地味系のプログラムである。それなのに満席というのはイケメンのソリストの集客効果だろうか。客席にはおばさま方の多さが目立つ。

それで、この人、聴いてびっくりした。何というダイナミックレンジの広さだろう。ハープという楽器のイメージを覆すと言ってもいい。まずもってオーケストラに埋没しないのだから驚き。もちろん作曲者がそういう風に曲を書いているにしても、である。正面、天井桟敷で聴いていてもデリケートなピアニシモから力強いフォルテッシモまで、むらなく美しい音が届く。いやあ、上手いものである。

グリエールの曲は1938年ということだが、1838年の間違いじゃないかと思うほどロマンティックなもの。素直で、音楽が自然で、ディーリアスを連想させる環境音楽のような感じ。独奏がハープでなければ残らない作品かもしれない。しかし、とても気持ちのよいコンチェルトで、外の蒸し暑さをしばし忘れさせる。

メストレがアンコールに演奏した独奏ハープの曲名は知らないが、こちらも弱音の繊細さは息をのむほど。いいものを聴かせてもらった。この人、男が見てもかっこいい。すらっとした長身、ノーネクタイの黒いドレスシャツを細身のスーツの中に着込み、いかにもフランス人、身のこなしも絵になる。きっと女性陣の追っかけが増えたかも。

シベリウスの交響曲第5番は実演で聴くのは初めてで、録音を聴いていてもとらえどころのない音楽という印象しかなかった曲だ。私は交響曲第4番の厳しさが大好きで、それとは対照的な感じもあるこの曲は苦手。トウッティがほとんどない第4番に比べると、第5番では威勢よくオーケストラがなる場面が多い反面、曲想のギャップも随所に感じる作品だが、今回の実演はなかなか楽しめた。

お国ものということで思い入れも強いのだろう。じっくり聴くと、リントゥはフレーズごとに恐ろしくテンポを動かしている。よくオーケストラがついて行けると感心するほど。特に第二楽章の作り方はその極み。収拾がつかなくなっても不思議じゃないやり方だし、曲自身もその要素を十分に持っている。ところが、そんな事態の手前で踏みとどまるのは、指揮者の作品理解における自信のせいかも。長い休符を挟んだ印象的な和音の連打となるエンディングに至って、これはなかなかの演奏ではなかったかと、作品を再評価する。

プログラム冒頭の「ロメオとジュリエット」、オーケストラがまとまるまで時間がかかる。演奏が進むにつれて音の焦点が合ってくるような感じを受けることの多いオーケストラで、この日もその例に漏れない。ソロのパートでデリカシーに欠けるところもあるオーケストラだけど、演奏しているうちに良くなってくるのはノリがいいということでもあるんだろう。

定期演奏会には珍しい後半プログラムのあとのアンコール、終演後にパーカッションの人が舞台に上がってきたので、ははあん、第四楽章をやるつもりなんだなあと推測(交響曲第5番は三楽章)。

彼の国からの客演指揮者なら、やっぱりこれをやらないと終わらない。楽想の対比が見事な「フィンランディア」だった。木管楽器に出て弦に広がる優しい旋律をほんとに慈しむように奏するのは感動的。

安いチケットをさらに安く買って、まあ行けたら行こうぐらいに思っていたコンサートだったが、これはなかなかの掘り出しものだった。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system