佐渡オペラ「カルメン」 ~ 千秋楽**2、座布団ならぬ紙吹雪
2009/7/26

大阪の夏で暑さには驚かないはずが、名古屋は格別のものがある。暑さの質がちょっと違うのか、一年前、最初で最後の大須オペラを観に行ったとき、歩いていてクラクラと倒れそうになった。あのときもそのあと激しい夕立、そしてこの日も。お城の隣の体育館では名古屋場所千秋楽、奇しくもほど近い愛知県芸術劇場でも15日興業の最終日、まさか意図した訳ではないと思うが…

カルメン:ステラ・グリゴリアン
 ドン・ホセ:ルカ・ロンバルド
 エスカミーリョ:ジャン=フランソワ・ラポワント
 ミカエラ:木下美穂子
 メルセデス:ソフィー・ポンジクリス
 フラスキータ:菊地美奈
 モラレス:与那城敬
 スニガ:斉木健詞
 レメンダード:小原啓楼
 ダンカイロ:加賀清孝
 二期会合唱団
 ひょうごプロデュースオペラ合唱団
 名古屋少年少女合唱団
 兵庫芸術文化センター管弦楽団
 指揮:佐渡裕
 演出:ジャン=ルイ・マルティノーティ

東京公演も聴いた人の話では、オーケストラがずいぶん違うようだ。東京フィルは良くも悪くもルーチン、西宮と名古屋でピットに入った兵庫芸術文化センター管弦楽団は若くて活きがいいそうだ。宜なるかな、上手い下手ではなくて入れ込みかたが違うだろう。それに11公演目で、スタートからひと月、ずいぶんこなれてきている。ただ響きはホールの関係か、かなり違う。木で囲まれた西宮に比べると容れ物の大きさも手伝って愛知ではややデッドな感じがする。ともあれキビキビとした音楽は変わらない。

いちおうこちらがAキャストということになる。邦人で固めたBキャストも捨てがたいが、主役の歌手たちの安定感ではこちらだろうか。歌いぶりでは佐野成宏なのだが、高いところの安定で言えばルカ・ロンバルドである。そして、音楽性で言えば、木下美穂子は安藤赴美子に遙かに勝る。もっとも、声質がこの役に合っているかとなるとやや疑問。もう少し重い役柄の声か。そして、ミカエラという役柄もあるんだろうが、いかにも田舎娘という感じ。カーテンコールのときぐらいプリマドンナの歩き方をすればいいのに。あんなにもっさりしなくてもと思う。

タイトルロールのステラ・グリゴリアンと林美智子はいい勝負かな。まだグレゴリアンのほうがカルメンらしいとは言えるが、歌としてはこぢんまりとまとまった感じで奔放さは感じさせない。エスカミーリョは好みが分かれそう。成田博之はなかなか良かった一方で、ジャン=フランソワ・ラポワントは、マタドールらしく見栄えがして声も安定しているものの、オーケストラに遅れ気味で気になる。そして脇役陣は演技ともども断然Bキャストである。総じて言えば、個々の歌い手に強烈なインパクトはないものの、バランスのとれたAキャストというところか。

二度目の鑑賞なので、演出も目に慣れた。回を重ねてコーラスの動きも自然になっている。逆に主役の姿が目立ちにくくなっているとも見える。悪い演出じゃないけれど、いまひとつなのは第三幕。これは装置の問題でもあるが、紗幕の前後を交互に見せて山道と盗賊たちの休息地を転換するアイディアはいいにしても、フラットな舞台前面をロープを伝って横切る姿は、険阻な岩場のトラバースには見えず滑稽ですらある。終幕、エスカミーリョが身支度をするシーンを見せるのはフランチェスコ・ロージーのオペラ映画で使われた手法であるが、それを闘牛士たちを迎える群衆に繋がったオープンな小部屋でやらせるのは如何ともしがたい。この空間の処理には大いに問題がある。

西宮で観ればいいのに、名古屋まで足を運んだのは、地元では早々に安い席が完売していたのと、オワリ名古屋で完成度の一番高い公演を観るのも悪くないと思ったから。カーテンコールでは「ありがとう」の横断幕は降りてくるし、オーケストラ全員も上がった舞台には、座布団、じゃなかった大量の紙吹雪、賑やかなものである。ロングラン、ご苦労さまというところ。

さて、来年は「キャンディード」ということ。これまでの安全演目から一変である。西宮の公演日程は決まっているが、何回公演かはアナウンスされていない。途中に休みを入れて売れ行き次第では追加公演という従来パターンと見た。佐渡監督にとっても西宮の聴衆にとっても試金石になることだろう。

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