いずみホール夢コンサート ~ プレ「ウィーン音楽祭 in OSAKA 2009」
2009/9/24

財団法人住友生命社会福祉事業団が主催する、障害者・その家族・サポーターを招待する社会貢献事業、7回目となる今年は10月にいずみホールで開催する「ウィーン音楽祭 in OSAKA 2009」のプレ・イベントという色彩も。もっとも、招待客のみの公演だから、一般売りするわけではない。

この種のコンサートにありがちな名曲の寄せ集めによる聴衆への迎合ではなく、「ウィーンは歌う」という明確なコンセプトのあるプログラムであるところが、いずみホールならでは。かく言う私は関係者なので、手前味噌になるが…

企画はずいぶん前から始まる。コンサートの趣旨に賛同し、第1回から連続出演してくれている藤岡幸夫氏と関西フィルのスケジュールを抑え、次はプログラムだ。昨年はピアニスト辻井伸行氏を招き、その後に時の人となるという出来事もあったが、さて今年は。
 コンサートの企画なんて、まともな打合せよりも、雑談から形が出来てくるものだ。いずみホールの企画担当のK君とのやりとりで…

「今年は3年に一度のウィーン音楽祭をやりますし、時期的にも直前になりますから、ウィーンをテーマにしたプログラムで行こうと思いますが…。関西フィルも音楽祭に登場(ハイドン:「天地創造」で楽友協会合唱団と共演)することですし」
「となると、ウィンナ・ワルツということかいな。なんか、ニューイヤーコンサートの前倒しみたいやなあ」
「J.シュトラウスの作品に、ハイドンのトランペット協奏曲を入れると華やかなものになると思います」
「ハイドンの曲は聴いたことないけど、まあ、ええかな。でも、ワルツ、ポルカ並べるだけじゃ単調だし、ここに"春の声"を入れて、2年前に使った高嶋さんやったか、あの子なら声質も合うし、そしたらもっと華やかになるで」
「いいですね。あたってみましょう」
「彼女を呼ぶんやったら、ワルツ一曲だけじゃギャラがもったいないで。アンコールに一曲オマケというのは、どや」
「そしたら、"こうもり"のアデーレのアリア入れましょか」

かくして次のプログラムである。

J.シュトラウスⅡ:喜歌劇「こうもり」序曲
 ハイドン:トランペット協奏曲変ホ長調
   * * *
 ブラームス:ハンガリー舞曲第5番 (指揮者体験コーナー)
 J.シュトラウスⅡ:ポルカ「雷鳴と稲妻」
 J.シュトラウスⅡ:ワルツ「春の声」(ソプラノ独唱つき)
 J.シュトラウスⅡ:アンネン・ポルカ
 J.シュトラウスⅡ:ワルツ「美しく青きドナウ」
     * * *
 J.シュトラウスⅡ:喜歌劇「こうもり」
       ~アデーレのアリア「公爵様、あなたのようなお方に」
 J.シュトラウスⅠ:ラデツキー行進曲
   指揮:藤岡幸夫
   管弦楽:関西フィルハーモニー管弦楽団
   トランペット独奏:白水大介
   ソプラノ独唱:高嶋優羽
   司会:黒谷昌子

何しろこの日の聴衆は障害を持つ人たちが大半、いずみホールのスタッフだけではてんてこ舞い、任せっきりというのもいかんので主催者としてもお手伝い。会場入口近くでの誘導に立つ。帰路を考えて通常のコンサートより早い開演の18:30、開場も17:30だが、お客さんの出足は早い。杖、車いす、介助犬は当たり前なので、雨が降らなくてよかった。案内をして、いずみホールには障害者専用エレベーターがあることを初めて知る。

17:45になると、財団が運営する住友生命総合健診システムの看護師長と一緒に藤岡幸夫氏の楽屋に。これも初回以来恒例となっている手話の開演直前特訓。というもの聴覚障害者の人もコンサートに招いているからだ。これにはパイオニアのボディソニックシステムの無償協力がある。

「新しいパターン、やりましょか。わたしは・ふじ・おか・さちお・です」
「うわー、覚えられないよ。短く、いつものパターンでお願いします」
「じゃ。みなさん・こんばんは・きょうは・すばらしい・おんがくを・おたのしみ・ください」
「みなさん・こんばんは・きょうは・すばらしい・おんがくを・おたのしみ・ください」
「はい。終わりには。また・らいねん・おあい・しましょう」
「また・らいねん・おあい・しましょう」

と、そんなにスムースには行かないから、反復練習すること暫し。スペインから戻ったばかりで、まだ時差ボケとのことだったが、そこは指揮者ならではの集中力か、10分足らずでOK。あとは本番までに飛んでしまわないことを。譜面台はあっても、指揮者にはプロンプターはつかないのだ。

さて、開演時刻、司会の黒谷昌子さんが前口上を述べたあと、登場した藤岡さん、指揮台に登るとにいきなり棒を振り下ろすカルロス・クライバーのスタイル、溌剌としたリズムが沸き立つ「こうもり」序曲にはぴったり。まあ、その分アンサンブルは乱れ気味だが、こういうコンサートのオープニングは勢いが肝心。

一曲終わって、指揮台から手話を交えてご挨拶、ちょっとトチリもあったようだが、それはご愛敬。7回目ともなると、司会との呼吸もぴったり。曲目紹介、演奏者紹介など、合いの手を入れつつ進む。

トランペット協奏曲のソロを務めたのは、関西フィルの首席奏者である白水大介氏、数学を勉強して音楽家になったというセリー(12音音列)が似合いそうな異色の経歴、しかし演奏するのは古典派ハイドンの曲だからバリバリの調性音楽。私も含め来場者にはなじみのない曲だが、とにかく目立つトランペットの音だし、長さも適度で楽しめたのでは。第1楽章が終わって拍手が出るのは、ここでは自然。

いずみホール夢コンサートに限らず、関西フィルのアウトリーチ的なコンサートでは指揮者体験コーナーを入れることが多い。ただ、ここでは障害のある人なので、これまでも車椅子、盲導犬が舞台に上がっている。

この日、希望者の中から抽選で選ばれたのは、奥様が障害者である男性と視覚障害の女性。男性の張り切りようは尋常ではなく、気合いを込めて棒を振る。女性はといえば、目が不自由なので付き添いの人が舞台袖まで。そこからは藤岡さんが指揮台までエスコート、「ヴァージンロード歩いているみたいでした」と黒谷さんのインタビューに応え、客席がドッと沸く。なかなかの名台詞。

休憩を挟んだ後半、バルコニー舞台寄りの関係者席を離れ、1階後方で立見する。指向性の強い声が入るプログラムだし。そこで、大きな発見、ここがいずみホールのベストポジションではないか。関西フィルの音が鮮明度を保ちながらいい具合にブレンドされて届く。それも、中央でなく、2階部分がかぶらない左右がよい。座って聴くよりも立って聴くほうが聴衆の頭の上を通って音がストレートに到達する。ウィーンの国立歌劇場の立見が、1階平土間後方で客席に食い込んだようになっていて、そこがタダ同然の値段で最高の音だというのと通じるものがある(もっとも、人気公演の立見券入手には困難が伴い、聴くには相当の体力を要する)。いずみホールでも、完売公演ぐらい立見を入れたらどうなんだろう。1階後方の左右に10名ずつぐらい。ここに立つコアなファンの口コミの情報力は、好評につけ悪評につけ、侮りがたいものだから。

足腰がだるくなるのをこらえて聴いた後半の高嶋優羽さんの歌は予想以上の出来、天空高く舞うヒバリを思わせるようなコロラトゥーラ、高嶋さんの歌は2年前の夢コンサートがDVDになったものを聴いているが、そのときの夜の女王のアリア(モーツァルト:「魔笛」)よりも声質に合っているし、軽やかでいながら、金属的な響きではなく、柔らかさと暖かさがある。この2年間の進化を感じる歌だった。

緩急のポルカ2曲で"春の声"をはさみ、最後は定番中の定番のワルツで締めくくりなのだが、そこで後から入れ込んだ「こうもり」からのアリアとなる。J.シュトラウスの声楽作品を二つ、コンサート自体も「こうもり」で始まり「こうもり」で終わる。なかなか良くできたプログラムであると自画自賛。

おしまいは、これまた定番の手拍子入りのマーチ、客席のノリもこのあたりになると最高潮に。そして、手話を忘れることなく藤岡さんのエンディングメッセージ。

今回初めて関係者の全体打上げを開催し、出演者、司会者、関係団体、マスコミ関係者、住友生命関係者、社会福祉事業団スタッフ(いずみホール含む)等、50名ほどがホール内のバーコーナーに集まり、缶ビール、サンドイッチ等での質素なパーティー。一人あたり1000円もかからない。そりゃ、公益法人のすること、華美に走っちゃいかん。それぞれの代表者の短いスピーチなどを交え、和気藹々で一時間足らず。女性陣はイケメン指揮者を囲み、オジサン連中は美人ソプラノ・司会者を囲むという図。

継続は力なり、すっかり定着したいずみホール夢コンサート、これは社会貢献事業の色合いが強く、芸術文化振興に直結する催しではないが、これを機会に障害のある人が主催公演にも足を運んでもらえるようになれば、ありがたいことである。

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