大植英次 meets ウィーン楽友協会合唱団 ~ なんだか、よそ行き
2009/10/24

「ウィーン音楽祭 in OSAKA 2009」の中で唯一の完売公演、どころか、発売即キャンセル待ちが出たという目玉公演である。ご当地の人気指揮者と初演団体との顔合わせとなれば、あまりポピュラーとは言えないドイツ・レクイエムだって客が入ろうというもの。

ブラームス:哀悼歌op.82
 ブラームス:ドイツ・レクイエムop.45
   大植英次(指揮)
   釜洞祐子(ソプラノ)
   三原剛(バリトン)
   ウィーン楽友協会合唱団
   大阪フィルハーモニー交響楽団

かたちの上では大成功だし、満席の客席はけっこう盛り上がっていたのだけど、これはよそ行きの演奏という感じがしてならない。ブラームスのオーケストラ伴奏合唱曲では、オーケストラが自己主張する余地は少ないのだろうが、大植/大阪フィルは借りてきた猫のような風情である。目立たず伴奏に徹してというのも、コーラスが主役の作品だから問題はないし、そのコーラスがしっかりしているから尚更だけど、「大植英次 meets ウィーン楽友協会合唱団」というキャッチコピーで想像させる相互のインスパイアがあるかというと、いささか期待はずれだ。

演奏の本質には関係ないとは思うが、「トリスタンとイゾルデ」を暗譜で指揮したような人が、最近は譜面を置くことが多い。でも、この程度の長さの作品で、眼鏡までかけて指揮するというのは、準備が万全ではないのだろうと思わせる。せいぜい前日と当日のリハーサルなのか。こうしたいという意向を伝えようにも時間がないだろうし、あちらには初演団体のプライドもあろう、何かを言ったところですんなり事が運ぶとも思えない。このあたり、全く想像の域を出ないのだが、演奏を聴いて思いをめぐらしたのはそういうこと。

オーケストラは手探りと言うか、安全運転という感じでスタートし、それがずっと続いて、ドイツレクイエムの後半になってようやくエンジンがかかってきたという印象だ。コーラスは、ネームバリューに恥じない唖然とするような完成度かというと、それほどでもない。メンバーの声が完璧にブレンドされてマスとして届くかというと、これはあの人の声だなというようなところもあって、そんなものなのかなあというところ。あのスカラ座のコーラスがヴェルディを歌ってもそうだったもの。個々のメンバーの声が耳につくというのは、コーラスとしてはあまり好ましいことではないんだけど。

このコーラスの美点は何と言っても柔らかさだと思う。ドイツ語なのに、非音楽的で耳障りな子音が気にならないのは不思議、オーストリアの人だからか。それもあってか、激しいパッセージでもゴツゴツした角がなくて、とても耳に優しい。心の安寧を希求するような宗教的な作品には相応しい。

主役はあくまでコーラスで、ソリストの活躍の場は限られるが、三原さんは好調、逆に釜洞さんはこれまでに聴いた彼女のなかでは最低の部類の歌唱だ。比較的高い音域を要求されるバリトンのパートに三原さんの声は合っていたし、自信を感じさせる歌いぶり。一方の釜洞さん、どうしたんだろう。ピアニシモの持続力が全く感じられないので、凸凹道を走るクルマのよう。この人の歌はこんなんじゃなかったはず。言葉の明晰さ、フレージングの確かさ、大好きな歌手だけに、これは衰えでなく一時的な不調であってほしい。

ウィーン楽友協会合唱団といえば、昔カラヤンが来日時に帯同したことがあったなあと思い出す(私はついにカラヤンを聴けなかった)。今回の舞台を見るに、かなり高齢の人も混じっているので、当時からのメンバーもいるのかも知れない。コーラスと指揮者/オーケストラ、彼らの場合は何度も共演を重ねた気心の知れた間柄。一期一会と言ったって、大植/大阪フィルで同等の関係を確立するのは、どだい無理なことかも知れない。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system