大野和士/リヨン歌劇場管弦楽団「ウェルテル」 ~ 仰天、Rising Stars
2009/11/1

11月、あと2か月残しているものの、間違いなくこれが今年のベストワンになるだろう。それどころか、私がこれまでに聴いたマスネの中では、今日の演奏の右に出るものはない。

マスネという作曲家、私はさほど評価していなかったが、こんなに素晴らしい音楽を書いていたのか!いや、ひょっとしたら、演奏が作品を超えていたのではないか、と思えるほどの大野/リヨンの演奏だった。凄い!脱帽。

カールスルーエ、ブラッセルとステップアップして、何で次にリヨンなのかと、不思議に思った自身の不明を恥じる。これはパリと比べるのも愚か、先日来日したミラノスカラ座も凌ぐレベルだ。知名度なんて何の足しにもならない。

最初から最後まで全く音楽が緩まない。響きが深く暖かだ。とにかく、ソリスト以上にオーケストラが、歓び、怒り、笑い、泣く。インストルメンタルだけの部分では頑張るというようなものじゃない。歌のバックに回ったときも、全く手抜きなしに見事に連続した表情豊かな音楽を奏でる。

オペラコンチェルタンテ(演奏会形式)で舞台に乗っているというだけではないだろう。これは舞台の中心に立つ大野さんの力に負うところが大きいと思う。指揮者の指示へのオーケストラの反応の速さと的確さは異常なほど、ことオペラのオーケストラで、こんなことを感じたのは、他にはカルロス・クライバーぐらいしか思い当たらない。

大野さんが前任のモネ劇場を率いて来日したのは、就任後何年か経過してからだった。ところが、リヨンについては就任から日も経たずに来日が決定、それも今日の演奏を聴いて納得、オーケストラとの相性が抜群にいいのだろう、短期間に掌握しレベルアップを成し遂げたのだろう。何もお国もののマスネだからというのでもなさそう。ドイツものもイタリアものもこなす大野さんだから、当然劇場のレパートリーには入ってくるだろうし、このコンビなら行けそうだ。フランス第二の都市が、ヨーロッパのオペラをリードする日が来るかも知れない。

ウェルテル:ジェイムズ・ヴァレンティ
 シャルロット:ケイト・オールドリッチ
 アルベール:リオネル・ロート
 大法官:アラン・ヴェルヌ
 ソフィー:アンヌ=カトリーヌ・ジレ
 シュミット:バンジャマン・ベルネーム
 ヨハン:ナビル・スリマン
 管弦楽:フランス国立リヨン歌劇場管弦楽団
 指揮:大野和士
 児童合唱:東京少年少女合唱隊
 合唱指揮:長谷川久恵

オーケストラが主役と言ってもいいほどではあるが、歌い手も見事、私が名前を知る人はいないが、それぞれ実力は充分だ。ウェルテルのジェイムズ・ヴァレンティだけは線の細さを感じるところもあるが、これもフランスオペラのテノールの典型という言い方もできよう。他のキャストについては、言うところなし。シャルロットのケイト・オールドリッチは、声楽的にも無理がなく、激しいパッセージでも歌の美観を損ねることはないし、まだまだこれからキャリアを重ねて行きそうな逸材だと思うし、脇を固める人たちにも穴がない。子どものコーラスもよく訓練されていて好ましい。

オーケストラがここまで素晴らしいと、同じ舞台上のソリストに伝わらないはずはない。今日の演奏を聴いていると、その相乗効果というか、どちらも気持ちよくなって幸せなクライマックスにのぼり詰めるという、あらぬ連想を抱くほど。

土曜には四国松山で仕事、日曜の午後にはオーチャードホール。あっちこっちと体力勝負の感もあるが、オペラの虫が知らせたのか、無理して出かけて、これほどまでの名演に遭遇するとは。二度目の公演が3日にある。ああ、東京にいたなら慌ててチケットを買ってもう一回聴くんだけどなあ。

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