いずみシンフォニエッタ大阪・第23回定期演奏会 ~ 思わぬ(?)大入り
2009/11/28

ひょんなことから「いずみホール諮問懇談会」なるものに呼ばれ、ホール会員組織の長老、音大教授、放送局ディレクター、音楽ジャーナリストなどに混じって好き勝手を言ったのは二日前のこと、そのときにもなぜ客が入らないかと話題になったいずみシンフォニエッタ大阪の定期演奏会、奇しくも懇談会メンバーのほとんどの顔が客席にあった。

「やっぱり大入りは気持ちよろしな!現代音楽だけちゅうのは初めてやけど、これやったらまた来まっさ」とは長老の弁。同感である。客席が閑古鳥では、聴くほうも演奏するほうも気勢が上がらないのである。このレジデントオーケストラの定期演奏会は私も初めて。理由ははっきりしている。5000円(学生2500円)という価格設定が高いからだ。新鮮な体験が期待できる反面、とんでもないものを聴かされるリスクを考えたら、ジャンボ宝くじ3000円を超える値段だと二の足を踏む。

新・音楽の未来への旅シリーズ
 いずみシンフォニエッタ大阪 第23回定期演奏会
 「降り注ぐ太陽、熱狂のリズム~南米音楽特集」
 ナンカロウ:小管弦楽のための小品第1番〔1942/日本初演〕
 ピアソラ:バンドネオン協奏曲〔1979〕
 ヴィラ=ロボス:ギター協奏曲〔1951〕
 ピアソラ:シンフォニエッタ〔1953/日本初演〕
 阪哲朗(指揮)
 村治佳織(ギター)
 北村聡(バンドネオン)
 いずみシンフォニエッタ大阪

主催のいずみホールにしてみれば今回の大入りは嬉しい誤算のようだが、身銭を切る側からみれば想定内のことである。普段まとめて聴くことなんてない南米音楽ばかり集めた企画のユニークさ、ピアソラという名前を知っている人の多さ、ソリストが二人登場という賑やかさ、しかも一人はテレビコマーシャルなどにも登場する美女、海外歌劇場で叩き上げの道を歩んでいる阪さんが客演指揮者として登場すること。関心のありどころは人によって違うだろうが、これらの総和としての来場者数かと。まあ一番は村治効果だろうけど。

ナンカロウ、アメリカ人だと知らなかった。メキシコに帰化した人らしい。大井浩明さんから案内いただいたリサイタルで「自動ピアノのためのスタディ」を二度ほど聴いているのに、オーケストラ曲があったことも知らない。日本初演か、なるほど。演奏はリズムが難しそうだけど、これはジャズの乗りで耳には逆らわない。今年、庄司紗矢香が弾くリゲティのヴァイオリン協奏曲を聴いているが、変わった響きや複雑なリズム、なのに感覚的に違和感がない不思議さは通底する感じ。ナンカロウが世に出るきっかけがリゲティの絶賛だったというのも判る気がする。

ピアソラのバンドネオン協奏曲を聴くのは二度目、トゥーランガリラ交響曲と言えば原田節(オンドマルトノ奏者)、この曲には小松亮太という名前がセットみたいに思っていたら、いやあ、上手な人がいるものだ。北村聡さんは小松さんの弟子でもあるようだが、ひょっとして師匠以上かも。前に小松さんで聴いたときはオーチャードホールという大きな会場、しかもブラームスの第1交響曲のあと休憩なしに演奏という奇天烈なプログラムだっただけに、印象が希薄なせいもある。

いずみホールの大きさ(821席)は、バンドネオンという楽器には適正サイズかと思う。それでも第一楽章ではソロはオーケストラに埋もれ気味である。いずみシンフォニエッタ大阪は小さな編成なのに、個々の奏者の音の存在感があるせいかも知れない。第二楽章以降は北村さんのソロがどんどん冴えてくる。曲自体がそういう造りになっているのだろうが、技巧もさることながら、すっきりとスマートな音楽作りをする人のよう。

通常なら休憩前に拍手喝采に応えてというところだが、後半プログラムとのバランスに配慮したのだろう、予備なのか舞台にバンドネオンが一台残っていたがアンコールはなし。開演前のロビーの人だかりに驚いたのだが、そのときに弾いていたのかも知れない。

ギター協奏曲になると音量バランスはバンドネオンより厳しいものがある。いずみホールの最良の席で聴いていてもである。ソリストの脇に、羽のない扇風機のような形をした装置が置かれていたが、あれはSR用のものなのか。舞台前面に出るソリスト、後ろに壁を背負う訳じゃないので、間接音が拡散してしまうのかなあ。近代オーケストラの機能性の前にはギターは歯が立たない。マンドリンやギターのような撥弦楽器をシンフォニーに使う例はあっても、その箇所ではオーケストレーションを極端に薄くしているのが通例だ。それをコンチェルトのソロでというのはどだい無理なことではないだろうか。少なくともライブでは。

村治さんの美しく繊細なソロが際だつ部分はともかくとして、三つの楽章を通して聴くと、どうにもならないこととは言え、響きの落差が耳について仕方がない。愛すべき非力な楽器。

ちょっとフラストレーションの残るコンチェルトの後、これも日本初演、ピアソラのシンフォニエッタ。プログラムの両端がいずみシンフォニエッタ大阪の定期演奏会たる曲目である。プレトークでの音楽監督西村朗さんとの対談で南米音楽に取り組むのは初めてというようなことを言っていた阪さんだったが、なかなか堂に入ったもので、コンサート・サブタイトルの熱狂というより冷静な運びで、この初めて聴く変化に富む曲の面白さを届けてくれた。

朝は5時に家を出て、山登りをしたあと、温泉に浸かり、その足で向かったいずみホール、一日に三つの道楽を詰め込んで、気持ちよく居眠りになってしまったらと心配したが、これだけバラエティに富んだプログラムだと全くの杞憂、長く充実した一日となる。

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