下野竜也/大阪フィルいずみホール特別演奏会 ~ ニッチの魅力
2010/1/27

下野竜也というずんぐりむっくりの若い指揮者、最近とみに活発な活動ぶりだ。私はこれが三度目になるはずで、出光音楽賞のときに一曲披露したのと、「運命の力」のピットに立ったのを聴いただけ。その「運命の力」もちょっと変わった版を使うなど、何かやってくれそうな指揮者という印象。先日も、他の指揮者ならやりそうもないスッペの序曲を大真面目に取り上げたとか。

この日の大阪フィルの特別演奏会、プログラムの異様さに惹かれ前売り初日に申し込んだ。ハルモニームジーク、有名作曲家の聴いたこともない曲が並んでいる。ニッチもニッチ、ヘンな趣味の指揮者なのか、この人、トランペットを吹いていたということなので、体型ともども妙に納得してしまうところも。

メンデルスゾーン:吹奏楽のための序曲ハ長調作品24
 ロドリーゴ:管楽器のためのアダージョ
 アーノルド:金管楽器のための交響曲作品123
 R.シュトラウス:ソナチネ第2番変ホ長調「楽しい仕事場」

大阪フィルの演奏会といっても、今日は弦楽器奏者は誰もいない。曲によって編成が違うので、10人から30人ぐらいが舞台に立つ。並び方もまちまち、メンデルスゾーンとアーノルドは指揮者を囲むように扇形に、ロドリーゴでは横一線何列かの教室方式、シュトラウスではホルン4本を下手にミニオーケストラ風。ライブラリアンも大忙しだ。

メンデルスゾーン、長い序奏と主部の対置、この作曲家らしい素直さ自然さに満ちた一編だった。ロドリーゴ、これは面白い。スペイン風の楽想と、それにかぶってくる荒々しい咆哮、何だかショスタコーヴィチの戦争交響曲シリーズを連想させるようなところも。アーノルド、4楽章、30分近い曲を10人のブラスでやると、ミュートを付けたり外したりと工夫を凝らすものの、やはりちょっと単調に聞こえてしまう。第4楽章のフーガはとても良かったのだけど。

休憩時間、ホワイエの隅の喫煙室に向かうと、学生服、セーラー服の一団が押し寄せてきた。きっと先生の指示なんだろう、目立たぬように隅っこで腹ごしらえということのよう。でもかえって目立ってしまう。すぐにホール係員に促されて、バーコーナーの端のほうのテーブルに。中学生もいるし、高校生も、そりゃ食べ盛り、部活の後に駆けつけたんだろう、お腹も空く。コンビニおにぎりやメロンパンを頬張っているのがかわいい。一階席の前方と後方、さらに両サイド、大阪フィルは売れなかったチケットをブラスバンド部に提供したんだろう。お行儀よく聴いている。これは将来への投資、タダで聴かせてあげたらいいんだ。こういう種まきから、府立淀川工科高等学校吹奏楽部のようなところが生まれる。

さて、後半のシュトラウス、こんな音楽を書いていたんだ。これは最晩年の作品である。作品番号はないが、死の直前、交響詩群もオペラも書き終えた後の老年の筆すさびというところか。それまでの作品を連想させるような響きが随所に聞こえる。達人の手になると16人の管楽器でもフルオーケストラかと見まごうような密度である。いろいろやってくれるなあ、シュトラウス。魂を揺さぶるようなところは一切ないにしても、練達の技巧で丸め込まれてしまうというのが、どの作品にも共通する印象。まさに雀百までというところ。とても面白かった。

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